sugu_yoru
2021-03-04 13:00:04
3018文字
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【いちじろ】二郎に触り過ぎ4【さぶじろ】

いちじろ で さぶじろ だけど一郎無自覚です。一郎サイドです。

※「2nd Division Rap Battle」前。
※「マリオネット」後。
※ラストの展開よりR15

「え~なぁに? それって、つまり『間違い』が起きるかもって心配してるってこと?」
……そこまで言ってねぇだろ」
 シブヤ・ディビジョン。午後五時過ぎ。大きな交差点が見下ろせる商業施設の二階通路の一角で飴村乱数曰く『逢い引き』している。山田一郎は、ここ最近の『不穏』について乱数に相談していた。それを乱数が嬉しそうにする。
「アハハ、それにしても光栄だな! 一郎こういうこと寂雷のジジイの方に相談しそうなもんだけど」
「先生にこんなことでお時間取らせるわけにはいかねぇだろ?」
「何それヒッドイひっどい! 僕だったらお時間取らせてもいいわけぇ?」
「乱数、頼りにしてる」
「心がこもってなぁーいー!」
 ぶーぶーと唇を尖らせる乱数は、実質一郎より五つも年上だった。実は、人とのつき合い方が初心だった二年ほど前は、大分か相談に乗ってもらったし、弟と住みはじめた当初も、乱数に頻繁にメッセージを送っていたことが思い出される。
「三郎だって来年高校生なんだぜ、すぐ上の兄ちゃんといつまでも同衾ってのもよー、ちょっと女々しいってか」
「一郎の悪いトコだけど、『弱々しい』とか『みっともない』って意味で『女々しい』を使うのは感心しないなぁ」
……そら、悪かったよ」
「素直なとこは、イーとこだけどねん♪ でもまぁ年齢とか性別って関係ないんじゃないかなぁって僕は思うよ。男の子同士だってもうすぐ高校生だってさ、例えば二郎君が夜お化けが恐い~って一郎のとこ来たら一緒に寝てあげるでしょ?」
「ん、そらだって……可哀想だろ」
「十四歳なんて、まだ甘えたい盛りじゃん! マスターキーがあるんでしょう? それ開けて今日は川の字で寝ちゃえば?」
「乱数、俺たちが身長どんくらいあるか分かってる? 185、180、173……
「あっはー、誰かベッドから落ちちゃうかも知れないねっ! でもモヤモヤするのが解消されるんじゃないかな」
 風が冷たく吹いてきて、一郎と乱数の全く異なる髪の毛を横に流す。乱数が少し寒そうに身震いした。そう言えば、元から色は白いほうだとは思うが、今日夕暮れに出会った乱数は少し顔色が悪いように思えた。
「乱数、だい……
 彼を気にかけるような言葉を投げかけかけると、乱数は急に柵のそばから飛び降りて、「さぁむいね、一郎どっかカフェ寄って行こうよ。僕奢っちゃうよ☆」と言って商業施設の中へ入っていく。一郎はこういう時何もできず、言えやしないのは昔から変わらなかった。
 それでも乱数の後ろに大人しくついて行って、彼が望むように奢られてやろうとしたところで、ギュルギュルとパチンコ屋みたいな音が鳴った。「はいは~い☆」と乱数がスマートフォンに出ると『どこ行ってんだよ……!』と良く通る声がこちらにまで聞こえて来た。
「はは、帝統ぅ。声でっか過ぎ!」
『バッカ……、心配しただろうが……
 少し離れたところに立っている一郎にも伝わるくらいの焦燥。「乱数、俺のことは良いからはやく行ってやれよ」と声を掛けて立ち去ろうとするが、ズボンの部分に縋りつかれて危うくそれが落ちかけた。
「ちょ、ぁぶな……
「もー!! 一郎、帝統来るまで一緒いてよ! 久しぶりに会えたのに僕寂し〜い~!!」
「そら、頼ったの俺だけど」
「それに帝統、前君の弟と公園で逢ってたみたいだよ。ああ見えて口がかたいから、自分からは言わないだろうけどさ」
 通話はもう切ったようだ。「弟って、どっちの?」と呟いて、一郎は思わず足を止めてしまった。それを良いことに乱数はよじよじと一郎によじ登って、「はい、六階のカフェにれっつらご~☆」と言ってエスカレーターを指差した。

「おま、六階、ざけんなよ、乱数……
 エスカレーターを駆け上がって来たのだろうか。息も絶えだえな有栖川帝統に、高層タワーみたいな苺のチーズケーキパフェから手を離して一郎は思わず立ち上がった。乱数はと言えば、ブラックコーヒーを飲みながらニヤニヤしている。
「帝統ぅ、このビルエレベーターだってあるんだよ?」
「待ってるの性に合わねー」
「だろね! 帝統らしいや!」
 帝統が来てから、目に見えて乱数の顔色が良くなって見えた。一郎はなんだか安心して「俺の弟が世話になったみたいで」と頭を下げる。すると帝統は「はぁ? 何のことだ?」と目に見えてすっとぼけて見せた。
「ね、口がかたいでしょ? でも馬鹿正直だから嘘も下手なんだよ~ギャンブラーなくせにね」
「うるせー! 嘘つきなんて幻太郎一人で十分なんだよPosseは」
「でもねー僕見ちゃったんだ~、公園で三郎くんと逢ってる帝統をさ」
 そう言って乱数が液晶を見せつけてくる。そこには確かに何かしらを話し込む二人がいる。弟の硬い表情に、「なんだか迷惑かけたみたいで、すみません」と一郎は早口で言った。帝統はどっかりと乱数の傍に座り込んで水を一気に飲み干すと、「話してた内容は、聞かねーんだな」と笑った。
「まぁ『色(イロ)』の話だし、なんか解決したみたいだぜ。あのあとまたシブヤってか俺んとこに、わざわざ報告しに来たから。『お前の言ってたこと、正しかった』ってな」
……家族の秘密、詮索する趣味はねぇよ」
と、気になってこの場に残ったくせに。そんなことを言いつつ、残っていたパフェを水みたいに流し込むと、財布を出そうとして乱数に咎められた。何か頼んで欲しそうな帝統を引きずりながら三人でカフェをあとにする。

「じゃあね、イッチロー!」
 乱数は寒いのか、帝統のコートにすっぽり隠れて顔だけ出している。「三郎によろしくな」って笑う帝統にもムズムズした気持ちで手を振り返しながら、一郎は二人に背を向けた。ここにはいない夢野幻太郎の名を出しながら、二人はシブヤの街に溶けていって、やがて見えなくなった(空はいつの間にか満点の星空だ)。

* * *

 三郎が他ディビジョンのメンバーに相談していたのはいささかショックだった。しかし、考えてみれば一郎だって飴村乱数に相談しているのだし、『色恋』の話は相談しにくかったのかもしれない。兄弟のこと……、ではないはずだ、そう思いたい。
 あれから数日後。その日、一郎はマスターキーが手のひらの中に食い込むくらいに握りしめて、枕を片手に次男の部屋の前に立っていた。しかし、有事でもないのに弟のプライベート空間に勝手に入るのは気が引ける。何よりキャラじゃない。
 この間と同じようにゆっくりノブを回しかけて鍵がかかっていることを確認すると、背を向けてその場を立ち去ろうとする。しかしその時、苦しそうな二郎の声が、か細く耳に入って来た。流れるように振り返ってそのまま鍵を挿入する。
「二郎、大丈夫か?!」
 開けたその先には、弟は一人しかいなかった。すぐ下の弟は、驚いた顔をしてベッドの上におり、下は何も履いてなかった。真っ赤な顔、色が白いから膝や鎖骨のあたりまで赤いのが分かる。泣いたあとみたいに白目が真っ赤で、手は下肢の中央に添えられていた。
……っ」
 そこで一郎は、部屋を飛び出して行かず、思わず枕を抱きしめたままくるりと後ろを振り返ってドアを閉めてしまった。ガチャリと一郎の手前で鍵が施錠される音がする。その音にさぁっと血の気が引いたところで、「にぃちゃん」と二郎が小さくこちらを呼んだ。

<続く>