sugu_yoru
2020-10-21 12:50:20
2386文字
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【いちじろ】二郎に触り過ぎ3-2【さぶじろ】

いちじろ で さぶじろ だけど いちじろは無自覚です。二郎サイド続きです。独歩の弟の設定捏造してます。さぶちゃんは自覚しました!

「俺の弟も、そう言えば高校違うところだったから制服違ったなぁ」
「! 独歩弟いるの?」
「いるけど、そこそこ年が離れてる」
「関係ねぇよ、『兄ちゃん』なんだろ? 俺、相談があるんだけど……。とりま行こうぜ!」
 引きずるようにして連れて行ったスターバックスで、二郎は昨今の三郎の様子について観音坂独歩に相談してみた。これが思いのほか話しやすく、独歩が『兄』であるというのはどうやら本当のようだ(『兄力(あにりょく)』を感じる)。

「ふぅんなるほど。何だか幼児返りみたいになってるんだろうか」
「幼児返り? 赤ちゃんみたいなやつってこと」
「だって、一緒に寝たがるんだろ?」
「う、そうだけど。そういうのとは少し違う気がする。でもなんか小さい時やってたみたくチューしてきたり、よ」
「ほっぺに?」
「ああああ、当たり前だろ?」
 思わず席を立ち上がりながら言うと、独歩に奢ってもらった季節のスペシャルなドリンク(オータムスイートポテトフラペチーノ)が倒れそうになった。独歩が持っていた券があまりにも良い金額のやつだったもので(それなのに独歩は普通のコーヒーしか頼みやがらない)、飲み物の他にスイーツもそこそこ頼んでしまった。
 もし食べ残ったら兄弟に持って帰るのは良いだろうか? そう思って上目遣いで年上を見上げると、「いいよ」って内容をすぐに理解して笑いかけてくれた。そうしてから往来の方に目を向けて、何だか懐かしそうにする。
「でも俺もそれ覚えがあるな、小さいころ可愛がっていた記憶って消えないもんで、間違えて小さい子に接っするみたくして怒られたこともある」
「それ、すげー分かるし、俺の兄ちゃんも俺に対してそゆ時ある感じ」
 「すげー、最近だけど」という言葉は飲み込んで言うと、「一郎君が?」と独歩は少し驚いたようだった。「兄ちゃんは、その、デコにだけどよ……」と聞かれもしないのにゲロってしまい、笑われた。
「で、結局どうしたら良いと思う?」
「? 何もしなくてもいいんじゃないの?」
「ハァ? だってもう中三だぜ?」
「まーどうせこれからもっと身体も心も成長して、そういう機会は失われて行くと思うよ」
 そう言った独歩が少し寂しそうだった。「だから、今のまま気が済むまで一緒にいてあげたらいいんじゃないかな?」と尤もなことを言うものだから。「そんなもんか」とつれなく返したが、何となく色々と解決した気持ちになった。
 店内の硝子に、スーツ姿で干支一回りくらい年上の男とブレザー姿の二郎が写っている。それが少し別世界の人間過ぎて、二郎は滑稽さに思わず笑い声を出した。クスクスと背を丸めていると、独歩が首を傾げてこちらを覗いてくる。
「? 二郎君?」
「いやぁ、独歩。俺が女の子じゃなくて良かったなぁ。スーツと制服なんてマジ援交じゃん!」
「あぁ!! なんてこと言うんだ君は!!!」
 バッシャーンと彼のコーヒーが硝子とテーブルの間にぶちまけられて、また鬱モードに入った独歩が「すみませんすみません」を連呼しながらその場にしゃがみ込んだ。二郎は部活のタオルを鞄から取り出して、彼がシャツで拭かんばかりのコーヒーの池に投げ込んだ。
「うううう、俺が調子に乗って、高校生にカッコつけようと慣れもしないスターバックスなぞに来たのが悪いんです……
「ど、独歩落ち着けよ。火傷しなかった?」
「二郎君が優しい!」
 ゴツゴツッと、店の外側からノックの音がして二人で顔を上げると、黒い学ラン姿のそれほど背が低いわけではない山田三郎が立っていたもので。その能面みたいな表情に、観音坂独歩はそのままゆっくりと土下座した。

「全く、他のディビジョンと仲良くしやがって」
「な、お前だってヨコハマの軍人のところで見たってポリ公が言ってんの聞いたぞ」
「お前、入間とも連絡とってんのかよ」
……一回補導されかけたのを助けてもらっただけだ」
「一兄には?」
「言ってねぇ」
……、まぁいいよ。僕だって一兄に全ての交友関係を逐一報告しているわけじゃあないし」
 帰り道。ガサガサとスタバからの戦利品を携えているせいで、定期を出し辛そうにしている二郎を見かねて、三郎が手を差し出してくれる。受け取った紙袋の口を開けて、スンスンと子犬みたいに匂いを嗅いだ。
「どれが誰の?」
……お前食べたいのあったら先選んでいいよ。俺は向こうでけっこう食ったから」
「じゃあ僕アップルパイ」
と袋の中身を見つめながら子供っぽく呟いた姿に、何となく今なら言えるかなって二郎はそう思った。夕日が大きい。いつもよりビッグなそれは、聞けば科学的に三郎が解説をしてくれるだろうけども。
「お前さ、最近毎晩俺んとこ来るじゃん」
……
「鍵、癖みたいにかけるだろ? なんか怖いことでもあった? もしだったら兄ちゃんに頼んでお前と……
「二郎と一緒じゃないと意味がない」
「はぁ?」
「お前がフラフラ喧嘩とかするから、僕が心配する羽目になるんだ」
 ガサガサと菓子パンやスイーツが入った紙袋を抱きしめるようにする。「お前、俺が死んだりする夢とかもしかして見てる?」そう静かに刺激しないように聞き返すと、「死んだりはしてない、ただ僕も一兄に言われて開きなおることにしただけだから」と返される。
「開き直るって? は? 幼児化の?」
「何言ってんだ、この低脳が……。はぁ、もういいよ。今日からはもう遠慮しないから、覚悟しとけよ、二郎」
 そう言った三郎の耳や頰が、夕日に照らされたせいか酷く赤い。二郎は何とはなしに取り残されて、その夜は自慰する以外の理由で初めて鍵をかけた。いつまで経っても回らないドアノブを見つめながら、二郎は「あの夜のアレはじゃあ、誰だったんだろう?」ってぼんやりと思った。

<続く?>