sugu_yoru
2020-10-19 12:33:01
2409文字
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【いちじろ】二郎に触り過ぎ3-1【さぶじろ】

いちじろ で さぶじろ だけど両方無自覚です。二郎サイドです。続きます。独歩が出てきます。

 寒くなってきたからなのか、山田三郎が夜兄のところに頻繁に訪れるようになった。兄と言ってもすぐ年上の山田二郎のところで、毎夜訪れるものだから長兄のところには行っていないのだと思う。二郎は基本、鍵をかけていない。
「寒い」
とそう一言だけ告げると、ベッドの上でごろごろしていた二郎の壁側に潜り込んでくる(枕も持参だ)。三郎は成長期で、睡眠時間も大切にしていることを知ってた二郎は、本当はもう少し夜更かしして遊ぼうって思っていた予定を変えなくてはならなかった。
……消すぞー」
と言って部屋の電気を消すと、自分よりよっぽど体温が高いような弟に背を向けてベッドに潜り込む。おそらく先日負った傷を心配しているせいかもしれないとぼんやり思った。
 毎夜三郎が来るものだから、二郎はますます自室に鍵をかけられなかった。しかし、三郎の方はと言うと、部屋に入るなりすぐ施錠するのだ。そう言えば、昨年一郎とサンタさんをやってやろうとして、鍵がかかっていたものだから、マスターキーで三郎の部屋の鍵を開けたことを思い出した。
 鍵までかけていたくせに枕元には靴下がぶら下がっていて、微笑ましくて笑えたものだ。昨日のいいわけは何だったろうか……、「夜に見た心霊番組に、お前が怯えてるって思って」、だった気がする(それは確かに怯えきっていたけれど)。

 三郎の子供体温であっという間に微睡んでしまって、夜半に意識が覚醒したのは奇跡に近いところがあった。薄目を開けると、自室のドアノブがゆっくりと回っているのが見える。昨夜みた心霊番組のことが思い出されて、二郎は思わずそばにいた三郎をぎゅぅっと抱きしめる。
 そのドアノブは二度ほどくるりと回ったが、押しても鍵のために開かなかったことに気づいたのか、静かに元の位置に戻ると夜はまた沈黙した。そのころになってようやく「……ん、じろにぃ?」っと、寝ぼけた三郎が二郎の胸の中で拙く兄の名前を口にした。
 可愛らしさよりも先ほどの恐怖心の方が強かった。急ぎの用事で、ドアの向こうが長兄であったならば、マスターキーを使って二郎を起こすだろう。内線電話だってある。「じゃじゃじゃ、じゃあ、あれ何?」ぎゅっぎゅと、抱きしめると言うより締め上げられて三郎がまた呻く。
 今度は意識がはっきりと覚醒したのか、「ていのう、夜に騒ぐなよ」と瞳をこすりながら身を起こしてくれた。二郎は聡明な弟が起きてくれて心底ほっとする。振り返るのも怖くて、ドアに背を向けたまま指先だけそちらを指し示す。
「今、ドアノブが」
「うんうん分かった、朝聞くから、寝よう」
 そう言って二郎の胸の中で顔をひょいっとあげた。柔らかい唇が自分のそれに掠った! って思ったら、ずるずると弟の身体は胸を滑り落ちていって、また眠りの中に沈んでいった。二郎は何というか『ぽかん』としてしまった。

 毎夜添い寝するだけではなく、『チュー』までされてしまった……。やはり、少し過保護にしすぎているのかもしれない。しかし、なぜかそれを長兄に伝えるのはまるで告げ口をするようで憚られた。三郎は覚えていないのだろう、朝寝起きの悪い二郎を蹴る始末である。
「さて、どうっすっかなぁ」
 学校帰り、駅でそうぼやきながらミネラルウォーターの柔らかいペットボトルをねじりあげて、ゴミ箱に放り投げる。すると、ゴミ箱のすぐそばを通りかかったスーツで赤髪の男性が「うひゃっ! ごめんなさいごめんなさい!!」とこちらに向かって幾度か頭を下げた。
 二郎はその姿に見覚えがあった。「あー、独歩? 何してんの? こんなところで」と言って頭を掻くと、ようやくそのリーマンもこちらがイケブクロ・デヴィジョン『Buster Bros!!!』の山田二郎だって気づいたようだった。
「じ、二郎君! 何でこんなところに?」
「こっちの台詞だっつーの。ここブクロだぜ? シンジュクのリーマンが何の用だよ?」
「ひ! すみません、イケブクロで息をしていてすみません!!」
「いやゴメン違くて、マジどうしてここいるの? って聞きたかっただけで別に責めてねぇから……
 「すぐ怯えてしまうから、少し優しく話さなきゃならねぇな」って感じながら、鞄を抱きしめてしゃがみこんだ観音坂独歩に、目線を合わせて腰を折る。「で、どうしたよ?」と何段階か優しい声色で聞くと、ようやくゴニョゴニョと話し始める。
「仕事でイケブクロの病院を巡ってるんだ……、一つ受注が取れそうで、ここしばらく通ってる」
「マジで? 来た時言えよ。時間が合ったら遊ぼうぜ」
 そうスルスル言うと、「二郎君、俺君のお兄さんよりも十個も年上だったりするんだけど、遊んでくれるの?」と変なことを聞いてくるので「そーだけど?」と笑いかけると、クソでかいため息と共に脱力された。
「一二三も君もだけど、俺には『陽』のオーラ過ぎるんだよね」
「はは、独歩何言ってっかマジわかんねぇな」
「それもいつも言われてる」
 そう言って、独歩が急に顔を上げた。「二郎君、喉は乾いてないかい?」と聞いてくる。本当は先ほどペットボトルを飲み干したばかりだったが、これは奢ってくれる気だなっと気づいて「ちょっとだけ」と答える。
「実は得意先に頻繁にスタバの商品券みたいなのを貰うんだ。でもスタバって俺みたいなのにはちょっとお洒落過ぎるだろ?」
「何言ってっかわかんねぇけど、つまりスタバに一緒に行けばいいんだな」
 そう答えて、二郎は独歩の腕を掴んで立ち上がらせる。「おっと、背は大分自分の方が大きいんだな」って少しばかり感心しながら見下ろすと、「制服」とぽつりと呟かれる。この時間帯、二郎の制服の着こなしはだいぶかルーズになっている。
「制服、学ランじゃないんだね。君の弟さんがそうだからてっきり」
「三郎はまだ中学生だから、学校違うんだよ」

<続く>