sugu_yoru
2020-10-18 23:12:03
2916文字
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【creek】今度こそハッピーエンド

#珈琲と宇宙_CREEK版ワンドロワンライ
本日のお題は『若手牧師と小悪魔』! 『今度こそハッピーエンド』
死ネタというか、哀しい表現を含みます。自衛して下さい。冒頭はギャグです。画像の方読みにくくなってしまったので、ベッターにも載せます!

今度こそハッピーエンド

「大体にして、題材が悲劇的なんだよ。それこそストーリーラインはシリアスになれ、そうなれって全世界に圧力をかけられてるようなもんで。その並行世界線(パラレルワールド)を俺はずっと巡ってきたわけ、ホラ感想は?」
「お、お疲れさまです……?」
「声が小さい!」
「お疲れさまです!!」
 礼拝堂にて。マイクを片手にグダグダと話しているのは黒衣の若手牧師で、見た目が無駄に美しく思えた。目の前に座るのは十歳前後のブロンドの少年に思える。ただ人と違うのは、額からにょきにょきと伸びた赤い角と背中からは赤い羽、山羊のように毛むくじゃらの下半身を持っていることだろう(赤い尻尾もある!)。
「お言葉ですけど、ファニーだったり心が温まるような世界だってあったんじゃないの!?」
「見てきたのか?」
「いや、その。可能性の一つとして……
 悪魔の名前はトゥイーク・トゥイークという。何をしたのか記憶は曖昧だが堕天したばかりで、よちよち歩きの小悪魔ちゃんである。飛ぶのに失敗してボテリと落ちたのは石畳の上で、引っ掴まれて礼拝堂まで連れてこられてしまった。
「ななな、何なんだよ」
「いいか、俺はもう失敗するわけにはいかねぇんだわ」
 ストンと木の椅子に座らされ、それで冒頭のシーンである。毛むくじゃらだけどお尻の下が冷たい。もじもじと脚を動かして、もうはやくこの礼拝堂から出て行きたかった。外が見たい、草原、青空、小川……
「ワンちゃん」
……犬はヤメとけ」
 牧師は、その言葉だけはマイクを通さず言い捨てた。彼の名前はクレイグ・タッカーだと言う。どうやら『若手牧師』と『小悪魔』という間柄で、もう何度も世界をやり直しているらしい。平行世界の中では、トゥイークがクレイグを憑き殺してしまったり、村人に存在を弾圧されて見せしめのように殺されてしまったり……。とにかく悲劇を伴う結末ばかりのようなのだ。
「で、でも二人でこっそり穏やかに暮らして、君の方が老衰で静かに息を引き取るとか、そういうのはなかったの?」
「俺が目指してるのはまさにソレ。でもそうなったことはない」
「違う関係性で出逢ったことはないの? 例えば僕が司祭で君が悪魔とか」
「俺、お前と同い年なのに、『小悪魔』じゃないの?」
「アァ?! 僕たちって同い年なの?」
 トゥイークが身体中の毛を逆立ててそう聞くと、若手牧師はマイクを持っていない方の手で唐突に顔を覆った。「それくらい望んだって、いいじゃあねぇか」と口の中で呟いた言葉が、尖った耳のトゥイークには聞こえてしまう。
「だって、どう足掻いたって俺の方が先に死ぬし」
「ねぇ、僕それ気になっていたんだけど。僕が先に死んじまう未来だってあったろう? 君はそのあとその世界を、どう過ごして来たんだい?」
「最初のころは、お前の復活のために手を尽くしたさ。でも根本的に解決はしなかったから『やり直す』しかなかった」
「『やり直す』?」
「自死したってこと」
「OH! MY 『ダーリン』」
 トゥイークの唇から、極自然に『ダーリン』という呼び方が零れ落ちた。たったこれだけの会話で、目の前の青年は転生前のトゥイークに『ご執心』だったということが分かる。トゥイークは席を立った。先ほどまで届かなかったはずの石畳に、蹄が届いている。
「ねぇ君、もう『僕』から解放されても良いと思うよ? まだ二十代とかだろ? まだまだ人生は続くよ。はやくこんなところから出て……
「五月蝿い、うるさい。……お前まで俺を否定するのか」
「違うよ! 僕だって君のこと、心配してるんだ」
 あぁ、西日が眩しい。それにトロトロと溶かされる心地になる。恐らくもうあまり時間がない。何よりトゥイークの存在の拠り所であるクレイグ・タッカーがグラグラしている。黒い上着の合わせ目がパラリと解けて、中に白い布が見えた。
 ここは大きな施設内に設けられた礼拝堂だ。施設内にいるプロテスタントの信徒たちが日曜日に訪れる場所。トゥイークの耳に、大きな建物の方から急いで走ってくる足音が聞こえた。上等な皮の靴。彼の父親が、勤め先が決まった時に贈ったのだろう。
「ねぇもういいんだよ。僕のことは忘れて」
「トゥイーク」
「幸せになって、ね?」
 トゥイークの身体は、もうクレイグと同じくらいの大きさになっていた。それで腕を広げて、踞るようにする黒衣を抱きしめる。黒い髪の毛は、礼拝堂に差し込む光のせいで熱を持つようだ。それにトゥイークが頬を擦り寄せたと同時に、誰かが礼拝堂に走り込んで来た。

「クレイグ」

* * *

「見つかったか?」
 灰色のパリッとしたスーツを着込んだ黒人の青年が、花束を片手に困ったようにクライド・ドノヴァンに駆け寄る。何だこの格好良い同級生は……、と些か呆れながらクライドは頷いた。「今、鎮静剤を打たれて病室に戻ったよ」と伝えると、トークン・ブラックはホッとした表情を見せた。
「せっかく目覚めたって連絡受けたのに、病室からいなくなってたから肝を冷やしたよ」
「点滴ぶち抜いてたからな、血痕を追って結構すぐ見つかった」
「今回はなんて言ってた?」
「小さい悪魔を、中庭で拾ったって言ってた」

 クレイグ・タッカーはもう十年以上閉鎖病棟で過ごしている。幾度も自死を試みて、そのたびにパラレルワールドを旅して来たような経験を、担当医や親友のクライド・ドノヴァンに話して聞かせていた。彼が精神を病んでしまったのは、ハイスクールのころの悲劇が原因だ。
 仲睦まじく過ごしていた恋人のトゥイーク・トゥイークが、クリスマスにクレイグに贈り物を買いたかったのだろう、ハロウィンのころ『何でも屋』みたいなバイトをはじめた。そそのかしたのは四馬鹿だったらしい、もちろん彼らも良かれと思ってのこととは思うが……
 近所で『ケルベロス』と呼ばれていたドーベルマン三匹の散歩、トゥイークがそれに引きずられるように町中を走っていたという目撃証言がある。犬はそのまま線路を駆け抜けて、そこに電車が通りかかった。犬は無事、トゥイークは無事ではなかった。

「にしても、夢や妄想の世界くらいではハッピーエンドにならんもんかね?」
 そうぼやくクライドは看護士になった。別の科につとめていたが、今年からこの病棟に勤務している。扉を開けると、トークンが先に入室する。そして少しだけ破顔した。小さいころから友だちの二人には、わかりにくいクレイグの表情の変化に気づくことができる。
「今回はでも、ちゃんとそうなったのかも知れないぜ」
……そうだな」
 白い部屋、白いベッドの中に沈む美しい男は、クライドやトークンよりずっと年若く見える。それがまるで母親に抱きしめられたような穏やかな安心した顔をして、少し笑った雰囲気で眠りに落ちている。
 開けっ放しだったはずの病室の扉が、まるで幼なじみの時間を守るように独りでに閉まった。ゆえに、中での会話はもう知ることはできなかった。病棟の廊下に、蹄の硬い音がカツカツと響いて、やがて消えて行った。

<おしまい>