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sugu_yoru
2020-09-27 23:12:54
2779文字
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【さぶじろ】椎茸チャーハン
椎茸チャーハンを食べに行く三男次男。『さぶじろ版深夜のお絵描き文字書き一本勝負』様より、過去お題を使用して良いとのことでしたので、第87回『美味い飯』をお借りしています。
「おい、飯食いに行くぞ」
もう既に準備万端の次男に言われて、「支度が済む前に声をかけろよな」と唇を尖らせる。山田家にはいくつかルールがあって、『無視をしない』もその中に含まれていたものだから三郎は「
……
わかった」と短く返事した。
ルールは結構沢山ある。例えば、夕方を過ぎたら中学生の三郎は一人になってはいけない。一郎は「一人になってしまったことを反省しろ」と三郎本人には言うし、「一人にしたことを反省しろ」と二郎には言う。
兄のことが大好きな二人は、ともすれば破りがちなその内容を至極自然に守っている。買い出しは二人で行くし、一郎が不在の日二郎はまっすぐ帰ってくる。飯を作るのがそれほど下手ではない二人(特に二郎)だったが、こんな風に外食に出かけることもままあった。
しかしデヴィジョンからは決して出ず、九時には戻ってこれる距離の飲食店と決めている。一郎はシンジュクの医者の用事だとかで、また一週間ほど家を空けていた。本当は二郎が作ったものが食べたかったが、それを言うのは照れくさい。
財布が入った小さい斜めがけの鞄を片手に持った二郎が、少し先頭立って三郎の先を歩く。あんな風に持っていたら泥棒に遭うんじゃないかと心配して「じ」と声を出しかけると「お、悪い」とまるでエスパーみたいに答えた二郎は、鞄をキチンと体に身につけた。
その動作をしている間に真横に追いついてしまったので、何となく恥ずかしさを覚えてヘッドフォンを耳につける。だんだん日が暮れるのがはやくなってきた。建物の隙間を吹く風に、三郎は一度身震いする。
「どこ行くの?」
「お前が知らないとこ」
「ちゃんとおいしいんだろうな?」
「美味しいよ」
「ふーん、疑わしいもんだ。低脳の脳細胞で『美味しい』って認識している店だから、僕にとっては『普通』の可能性もあるわけだしな」
「ふふ、お前吃驚するよ」
いつも通りに喧嘩をふっかけるが、意外なことに二郎は一郎が不在の時は乗ってくることが少ない。すっかり兄が不在になると、次男と三男の喧嘩は格段に減った。三郎の反抗期が止むかと言うとそうでもなくて、何というか『オブザーバーがいない時は気が乗らない』とでも言わんばかりに、二郎が穏やかに受け流すことが多いのだ。
「
……
ったく、調子が狂う」
「あ? 何か言ったか?」
「何でもないよ、さっさっと案内しろ低脳! 僕はもう腹がぺこぺこだ」
二郎が苦笑して三郎に向かって細くて長い腕を伸ばしてきた。反射的に瞳をつぶる。すると、ヘッドフォンの乗った前髪部分だけを撫でるようにして、指をぎゅっと握りこんでいる。「行くか」と短く返してそのまま歩いて行ってしまった。
「ここ」
「げー
……
正気かよ」
二郎が三郎を連れてきたのは古めかしい中華料理店だった。背が高い二郎が少し身を屈めないと入店できない。財布は二郎が持っている。仕方がないので三郎も、油をたっぷり吸ったような年季の入った暖簾をくぐり、店の中に入っていく。
「何でもうまいよ」
「
……
」
「おー! 二郎ちゃん早速来てくれたのか」
店主と思わしき中年の男性が水を汲んで二人の前に置いてくれる。口ではああ言ったが、二郎の方が友人と出かけることが多いので、美味しい店を沢山知っていることは否めない。
「俺、椎茸チャーハンね」
「お前、一兄が聞いたら真っ青になりそうなものを頼むんだな」
「家で結構入れないようにしてるから、たまに死ぬほど食べたくならね?」
「ならないよ、程良いくらいでちょうど良い」
そう言ってたくさんあるメニューに正直迷っていると「五目チャーハンにしとけよ、間違いねぇから」と二郎がまるで一人ごとのように言ってきたのでそれにした。人気メニューなのか、他のテーブルで頼まれた物と同じタイミングで運ばれてきた。
「
……
」
「な、旨そうだろ?」
「旨そうなのは店の努力の賜物だろ? 何でお前が手柄みたいにしてんの?」
可愛くなく返しはするが、目の前に運ばれた五目チャーハンは餡掛け仕様で、中々どうして美味しそうである。ブリブリのキクラゲに、エビ、モツなどの具沢山の餡が、シンプルな卵チャーハンの上にたっぷりとかかっていた。三郎は思わず生唾を飲み込んだ。
「はい、これスープね」
と縁までなみなみと注がれた茶碗を二郎は器用に受け取ると、三郎の邪魔にならないところに置いてくれる(とても持ち上げられない、どうやって飲むのだ)。「ありがと、いただきます」を早口で呟くと、蓮華に米をたっぷりとのせて口に含む。悔しいが、驚くほど美味しかった。
「
……
」
『美味しいだろ?』と言わんばかりの視線から逃れるように、バクバクとチャーハンに集中していると、二郎の方もチャーハンが運ばれてきた。器用にまた『表面張力鶏ガラスープ』を受け取ると、蓮華で数回掬い上げ飲み干している(これなら持ち上げなくても飲める)。
成る程と、三郎は次男を真似、スープを数口いただく。あっさりとしていて濃い味のチャーハンの箸休めにピッタリだった。そこでようやく二郎に運ばれてきたものを見つめる。思わず「うわぁ」と声に出た。
「一兄、卒倒チャーハンじゃん」
「莫迦を言え、兄ちゃんなら出されたもんは全部食べんだろ」
三郎の方と比べると地味な色味のみで構成されたその餡かけは、なるほど椎茸の出汁の匂いが煩すぎるほどだ。「少しいるか?」と目線で気づいた二郎に言われるが、「こっちにも入ってる」と蓮華で掬ってわざわざ見せてから食べた。
「んぁー、やっぱうめぇー」
口に米と椎茸をたらふく詰め込んだ二郎は、ご満悦顔で呻いている。三郎は、どう考えても自分の方が美味しいものを食べている気になっていたので、少し驚いた。何となく、美味しいものをこの兄に分けてやりたい気分になる。
「お前と一兄、僕の居ぬ間にセロリパーティとかしてないだろうな」
蓮華に乗せて、ウズラの卵と豚肉、海老なんかをヒョイヒョイと移動させる。二郎は特にかまえることもなく、「お、マジか。サンキュー」と言ってバクバクとそれを平らげてしまった。「しねぇよ、そんな祭り」とクフクフと口の中で笑うと、やっと冷めてきたスープの茶碗を持って一気に飲み干した。
「水おかわりいる?」
と聞かれるので頷く。三郎の方も、もうあと一口だ。食べ終わるのが寂しい気持ちもあるが、唐突に襲ってきた幸福感で、何だか泣きそうになった。慌てて持ってきてもらった水を飲んで誤魔化す。水を飲み干した二郎のスマフォがピカピカと光って、『飯食ったか?』と確認する長兄からのメッセージが少し見える。
すぐに返すかと思ったら二郎はそのままスマフォをポケットに仕舞い込んで、三郎が食べ終わるまでテレビなどを見て待っていてくれた。
<おしまい>
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