sugu_yoru
2020-09-22 23:39:33
2393文字
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【牧悪】no name_18(creek パロ)

spcreek 不定期更新 牧師クレイグと悪魔憑きの少年トゥイーク。死ネタです、ご注意ください。 ほどよく文章が集まったら同人誌にしたいです(希望)。

 中指を立てながら嵐の中墜ちていく。雨と雷に何度もなぶられて、何となくバターズの方を見ると、少し震えながら彼も青ざめていた。「アハ……君ってば、初めて目が合った時の姿に戻ったんだね」と言いながら、バターズの下唇が戦慄いている。
「あの時、最期に僕を見てくれた人はいなかった、君が俺を見つけてくれて、それだけで俺は君に報いる気持ちになるんだ」
 そうバターズが言うので、彼は『最期』の経験から、落ちるのが怖いのではないかという可能性に気づいて、思わずその丸くて小さい卵みたいな頭を抱きしめた。「ハハ! 相手が違うよ」とバターズは力なく笑って、二人は脅威にさらされながらそれでもまっすぐに墜ちていく。
 すると、何かムクムクしたものが前方に見えた。彼がいるところは真っ暗な漆黒の空間で、先ほどまでいた荒れ狂う雲の中とはまた違うようだった。急に二人を繋ぐ光輝く紐が、何だかうまく伸びていかないように感じられる。
 紐の限界を感じて、クレイグは胸に抱いていたバターズの顔を覗き込む。安心させるように精一杯口角を上げてやる。バターズはそれだけで何をクレイグが言うのか分かったのだろう、こちらの服を強く掴んでくる。
「おい、バターズ。ここまででいい。お前は上に戻れ」
 そう言うと、「何言ってるんだよ、戻るなら君も一緒!」とバターズは壊れたおもちゃみたいにギャアギャアと叫び出した。そういうところ少しだけ、クレイグの『ハニー』に似てるなって思ったけれど。クレイグはガチャガチャの歯を剥き出して笑って、自分の方の紐をしゅるりと解いた。
「もういい、お前は戻れ」
「クレイグ、でもオレまだやれるよ。『落下』には慣れてるんだ」
……あの時、助けてやれなくて悪かったな」
「オレが死んだのなんて、君が死ぬずっとずっと前だ」
 二人は奈落に堕ちて行きながら、クレイグは腕を伸ばしてバターズの柔らかい金髪を撫でた。すると、バターズが目に涙をいっぱいためて、それが二人が来た方向に泡だって消えていく。次もしあの天使に会うことがあらば、厭味の一つでも覚悟せねばならない。
「オレ……、死んだあとにクレイグとほかの十歳の子たちと過ごせて嬉しかったよ。チャペルにはケンがずっといたし」
……お前はこれからまた幸せに過ごせるよ、はやく戻れケニーが待ってるんだろ」
 そう言ってクレイグは光り輝く天使の紐を、二回合図するように引いた。ああやっぱり。ケネス(天使)はこちらの意志を尊重してくれる。クレイグがこのまま墜ちて行くのを望むと、先ほどまで頑なに空と二人の子供の魂を繋ぎ止めていた魔法の紐が、はらりと解けた。
 たわんでいた紐がピンと張って、胴体にそれを巻きつけたままのバターズの身体が、急激に引き戻されて行った。そうしてクレイグは、一度バターズの身体を下に引っ張ったあと、そのままゴムが元に戻るみたいに紐を手離した。
「おい! ケニー」
と最後天使に願うと、彼は分かってくれたように思える。両腕を下に伸ばしてバタつくバターズに、クレイグは墜ちて行きながら視線を合わせる。ドンドンと離れて行く距離に、クレイグは思い切って大声を張り上げてお礼を言った。
「バターズ、ありがとう! お前がここまでしてくれるなんて俺、思わなかった」
「クレイグ……、『さようなら』なの?」
「そっちで二人、楽しくな」
「君たちも……!!」
 バターズの瞳からぼろぼろと綺麗な涙が落ちてくる。クレイグは服にそれを纏わせながら、キラキラと愛する悪魔の元に墜ちていった。自分が一人きりで誰にも知られずに……ということじゃなくてせめて良かったと思えた。
……ありがとうバターズ」
 クレイグは今一度礼を述べると身体を反転させて、しばらくの間ずっと一緒だったいたいけな魂に向かって手を振った。そのあとは、落下に抵抗がないように、下に頭をやり両腕を真っ直ぐ身体に引っつけて、奈落の奥底に向かって堕ちて行った。

 暫く堕ちて行くと、その先に何か毛むくじゃらが見える。それはわずかに紅い光に包まれていて、クレイグはそこまで辿り着くと、ぬいぐるみを抱くみたいに相手をぎゅうっと抱きしめた。トゥイーク・トゥイークもすっかり子どものサイズに戻っている。
 ただ、脚はヤギのままだったし、背中には赤い羽が生えている。それを空気抵抗のないように折り畳んだまま地獄へ向かっていた。急に現れたクレイグに驚いて叫ぶ。だが一度躊躇ったあと、青いブルゾンの彼の背をぎゅっと抱きしめ返した。
「ねぇ僕ら、こんな風に抱きしめあったことが前あったよ」
「トゥイーク」
「君とは、お別れが済んでる。上に戻って」
「一緒にいようぜ、なぁトゥイーク……
「このままだと、二人とも地獄堕ちだ」
「今さら、てかもう戻れねぇだろ」
……くそっ、君のこと好きだ」
「そらどうも」
 クレイグが焦がれる悪魔は、涙をひたひたと零しながら、酷く怯えるようだった。「勘弁してよ!」と愚図りはじめるのでクレイグは思わず笑ってしまった。クレイグの青い衣服が、黄色く一回煌めいてから徐々に燃えて朽ちてゆく。『奈落』が近づいていることが分かる。
「僕なんかのために、そんなこと考えて、こ、こんな風にして。そんなゆかりなんてないんだよ僕たちは」
「じゃあ何で俺のこと生き返らせようとしたの?」
……違うの、僕がそうしたかったんだよ。そうしたかったから、したの」
「じゃあ俺だってそうだ」
 そう言って脚を絡めてぎゅうぎゅうと抱きしめると、まるで凹凸が重なるようにしっくりくる。やっと、二人は心から再会することができた。クレイグは堕ちながらだというのに、何だか安心して愛しい小悪魔の肩越しに吐息を漏らす。
「いいか? 俺は『嘘つき』は大嫌いなんだ、やれもしねぇことを宣言する奴も嫌い」

<続く>