sugu_yoru
2020-09-14 18:16:47
3060文字
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【タイカケ】ひっそりと考えていた、一人で

ずっと放置していた新作です。タイカケ深夜のおえかき一本勝負 第7回【過去お題:新しい服】です。

「フォーマルな席だけれど、かしこまり過ぎないように」
 氷室聖はそう言うが、ピンとこなさ過ぎて。香賀美タイガは首を捻り、同い年の一条シンと顔を見合わせる。衣装で着たことはあるけれど、自分たちで用意するのは初めてだ。視界の端でスマショをムイムイいじっている十王院カケルをこっそり盗み見ると、視線に気づいたように顔を上げてくれた。
 一度キョトンとしてからニマニマ~っと微笑んで「僕ちゃんに、おっまかせ~!」って『OKサイン』を指で作ってくれる。「アホが……」って思わず可愛くなく悪態を呟いてしまって、氷室主宰にため息を吐かれ、後ろ髪をバサバサと弄られてしまった。

「えへ♡」
「『えへ♡』……じゃあ、ねぇだろ」
 ビル街の一角。カケルにシンと共に連れてこられたのは、明らかに高級そうなスーツ店で。高校一年生の二人は身を寄せ合うように歩いて、堂々と先導する十王院カケルについて行くしかない。先輩らしいことがしたかったのだろうか、カケルの顔は緩みっ放しだ。
「せっかくだからねん」
「おい、カズオ」
「エーデルローズのお金で足りるんでしょうか?」
「採寸はするけど、そこそこ予算に見合った素材で作ってもらうからジョブだよん。その他は今回特別ね、僕ちゃんここの常連だからサービスサービスぅ⤴︎ってわけで」
「いらっしゃいませ」
 若過ぎず年寄り過ぎず、ちょうど良く仕事ができそうな女性の店員が二人。一同を待ちかまえていて、深々とお辞儀してくれる。
「じゃあ、シンちゅわんはそちらのレディに、タイガきゅんは『なからいさん』にね」
「はい!」
 シンはややドギマギしながらも、ちょうど母親くらいの女性定員の後ろへついて行く。両手と両足が一緒に動いていて、緊張していたタイガは少しだけ救われた心地になった。すると傍でニコニコと年配の店員が笑いかけてくる。
「坊ちゃん、すてきなお友達ですね」
「おともだ……ち?」
「ね、可愛いっしょ?」
「カズオ、てめ……
 照れて、口汚く訂正しそうになったが、にっこりと笑った品の良いご婦人と目が合ってしまって、タイガはその醜い言葉を飲み込むしかできなかった。まるで保護者のように目を細めて頷くと、カケルは何でか嬉しそうにしている。
「半井さんはね、僕ちゃんが本当にちっちゃいころからお洋服の採寸をしてくれてんの」
「そうなんスか」
「ええ、本当にまだちっちゃくて、短パンにサスペンダーのころからお世話させていただいております」
 そういえば、カケルの普段着ているシャツは、Mにしては大きくて、Lにしては少し小さいように感じる(前、間違って着てしまったことがあるのでわかるのだ)。タイガが思考していると、品の良い鐘の音がして、『なからいさん』は心配そうに入り口の方に顔を向ける。
「おんやぁ、お客さんかもね、半井さん行ってきて良いですよ」
「すみませんお坊ちゃん。今もう一人は使いで出ていまして」
「うんうん、大丈夫だよん♪」
 ひらひらと店員を見送って、受け取ったメジャーを首にかけると、カケルはタイガに振り返って笑った。タイガはイヤな予感しか最早しない。助けを求めるように一条シンに首を向けるが、件のシンは母親くらいの美しい店員に明らかに照れてしまっていて、こちらの状況に気づきもしていない。
「さぁて、タイガきゅん。採寸はじめよっか?」
「おめぇ、できんのかよ」
「ごっこでもいーじゃない。ちょっとやってみたいだっけ~」
 タイガはさっきとは違う意味で、きょろきょろとあたりを見渡してから「ん……」って目を閉じて両腕を広げた。カケルは一瞬なぜか押し黙ってから、こちらに一歩踏み出したのが気配で分かった。知らず鼓動が高鳴る。
「うんじゃぁまず肩幅ね~」
 言って後ろに回ると、わずかだが肩に感触がある。ぴーっとメジャーで長さを測られて「タイガcm(センチ)~」っと脳天気な声がしたもんだから思わずタイガは吹き出して笑った。その場には二人きりで、だから油断したのだと思う。
 胸回りを測った時に、当然背でメジャーを交差させると思ったカケルが、タイガの胸の真ん中でそれをしたものだから、なんだか急に照れてきてしまった。それを気取られないように、ドキドキを悟られないように意識して……。タイガは思わず真顔になった。
 すると、それまでペチャクチャ喋っていたカケルまでもが、急に黙り込んだものだからタイガは心配になる。「カズオ」って尋ねて顔を覗き込んだ。カケルの指先は何でだかわずかに震えていて、メジャーを交差したところの数字を見ても一向に言葉を発さない。
 見下ろす顔色が、だんだん真っ赤に染まっていって、眼鏡の鼻のところが汗でずるりと少し落ちた。あまりのことに、タイガが「おい……」と手を伸ばしかけると「えっとー……、これでいいのかにゃー?」とシュルンとメジャーを抜き取ってしまった。
「おーしまい! なんかメモリの見方わかんなかった」
って、カケルはメジャーを後ろ手にタイガから隠した。コイツ、照れていやがる……! 気づいてしまったタイガも、戯れに自分の手首を触ってみると、脈が恐ろしいほど早く波打っている。俺、これ脈速すぎて死んだりしねぇよな? 目の前を見ると同じように動揺した年上が見える。
 タイガは思わず一歩カケルに歩み寄って、肩をぐいっと捕んだ。顔を寄せる。避けられなかったのでそれは相手に直撃した。柔らかく、熱を確認するような接触。二人の体温は溶け合うように同じだった。
……そわそわしてんじゃねぇよ」
 唇が触れたのは一瞬だったし、そのあと投げつけるように距離を取ったので、文字通りトマトみたいに真っ赤になったカケルはよろよろっとよろめいた。タイガは思わず隣のフィッティングルームに目線を巡らす。
 一条シンはちょうどカーテンを閉めて、何か試しに履いてみているのか、中からお母さんと息子のように和む会話が漏れ聞こえてくるだけだ。はぁ~っと、安堵して二人でため息をこぼすと、ちょうどその時に半井さんが用事を済ませてこちらへ戻って来るところだった。
「はぁすいません、郵便でした。あれ、坊ちゃん。暑いですか?」
……おめ、顔真っ赤」
 ぼそっと呟いたタイガの耳だって、火傷したみたく熱かったのだけれど。「嘘」って早口で呟いたカケルは「~……っ、何か逆上せちゃったみたい! 今日また夏かってぐらい暑いしねん!」と言って、手のひらで自分をパタパタと仰いでいる。
「もうすぐ台風が来るみたいですよ、そのせいかもしれませんね」
「そそそ、そなんだ。俺っち、ちょっち顔洗って来るねん!」
 そう大急ぎで言って半井さんとタイガを残すと、カケルは奥の手洗いにパタパタ走って行った。途中でもう採寸が大詰めのシンが「カケルさん、これ……あの」って呼び止めかけたが、それにひらりと手を振って返して、手洗いに逃げ込んでしまう。
 きっと入ってすぐに、自分の柿みたいに真っ赤な顔面を見つめて、しゃがみこんでいることだろう。わずかに「わ~……」ってカケルの声が聞こえた気がして、格好良く仮のスーツを着たシンが、お手洗いに駆け寄って心配そうに外からノックしている。
 その間に半井さんは手際良く、あっという間にタイガの採寸を終えてしまった。タイガはにやける顔を嚙み殺しつつ、まるで天照大御神(あまてらすおおみかみ)みたく出てこないカケルを、どうやって外に出そうかひっそりと考えていた。

<おしまい>