sugu_yoru
2020-09-05 00:28:10
1985文字
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【R15】 運命共同体(水陸十)

2017年12月以前に書いたものです。四度目の再掲(気に入っています)。
薬物、監禁などの要素がありますのでR15とします。

 十四松がいなくなった。それまでも数日行方不明になることはままあった。焦って言葉が乱暴になるトド松、無言でそれでも町中を探し回る一松。おそ松兄さんは何か言いたげに僕を見ていた。気づいている。恐らく気づいている。でも僕は今更止めよう何て考えられなかった。
 きっかけはサマージャンボだ。本当に二億だなんて大金が転がり込んでくると、逆に僕の脳内は冷静になった。三つくらいの金融機関に金を分けて預けて、両親には「一千万当たった」と嘘をついた。
 その内の六百万ばかしを両親に渡したら、二人は喜んで僕が契約したマンションの書類にサインしてくれる。それから僕はゆっくりと準備を始めた。何をって? 可愛い弟に手綱を結ぶ準備をだよ。

「えあ?」
 十四松が膝から崩れ落ちる。毎日こっそり飲み物やご飯に入れている漢方で体が不調なようだった。これ以上投与すると正直危険だ。よろっと頃合いかなって思って、深夜トイレで吐く十四松の背を撫でながら僕は少しずつ彼の身に何が起こっているか説明し始める。
「実はお前は松野家の兄弟じゃないんだ、宇宙人なんだよ。母艦が壊れて投げ出されていたのを両親が引き取って、六子の一人として育ててるんだ」
 最初は「嘘、嘘」と涙目で否定していた十四松も、「人間の姿でいられる魔法が切れてきてる」とか「このままじゃ本性がバレて国に追われて殺されちゃう」とか。恐ろしい僕の戯れ言を段々と信じるようになった。
「大丈夫、このために部屋を借りたんだ。姿が宇宙人に戻っても気づかれないように、そこへ行こうか」
 そうだまくらかして、連れ出して。僕はそのまま弟の首に見えない手綱をかけて監禁した。十四松は優しく囁く僕に縋るように、大人しくマンションでの生活を受け入れている。段々と漢方の効き目もデトックスされて、僕は正直ホッとしていた。

 元ネタは二十六年ほど前の、コロ○ロコミックに載っていた読み切りだ。僕らが揃って行く古い床屋で山積みになっていたのを小学生の頃読んだ。僕らがまだ生まれる前に掲載されたものだ。その古い短編が、大人になった今でも憶えているくらい僕の心を捕らえていた。
 十四松はきっと、憶えていないんだろうな。すっかり具合が悪くなって白いベッドに沈む弟は、ここに連れてきてから顔色が良くなったようだった。でも少し元気がなく、「いつ皆のところへ戻れる?」「ぼくの見た目変わっちゃった?」って健気に何度も聞いてくる。
 見た目はちっとも変わっていない。むしろ二人きりの世界でより可愛くなったように感じられる。でも僕は「うーん、今はまだバレちゃうかもね」とか「人間らしく見えるようになる良い方法を聞いて来た」とか言って弟を安心させた。
「要はさ、人間のエキスを覚えればいいんだよ。僕、協力するから」
 そう言ってベタベタと無遠慮に触った。一緒に風呂に入って、裸で抱き合いもしたし、キスだってやっと覚えた。そろそろローションやゴムがいるかな? って思った矢先だった。その青い色が僕らの世界に踏み込んだのは。

「チョロ松……、これは」
「カラ松」
「十四松っ! お前、どこ行ってたんだブラザーっ!!」
 叫ぶようにして入ってきたカラ松は土足だ。僕がマンションの扉を後ろ手に閉めようとした瞬間、チェーンなどをかける前に隙間に体をねじ込んできた。この馬鹿力。僕は為すすべもなく入室を許してしまって脱力した。
 そうだ、こいつがいた。おそ松兄さんにばかり気を張っていて次男の存在を忘れていた。十四松の無事を確認したあと、カラ松は僕のことを持ち上げて殴った。恐らく手加減している。口の端が切れているくらいで済んでいた。僕はそこをペロリと舐めた。
「カラ松、十四松に言ったんだよ、ずっと秘密にしてたんだけどさ」
「何をだ」
「十四松が実は『宇宙人』だってこと。だから地球の食べ物がキツくなってきたってこと」
……っ!」
 ほぅら憶えてた。あの時一緒に髪を切る順番を待つ中、夢中になってその短編漫画を読んだのは次男と一緒だった。カラ松が僕の襟首を握る手を離す。そうして僕の瞳を見つめて全てを理解したようだった。
……吃驚しただろう? 十四松」
 ほぅらほぅら。僕はぞくぞくと背筋が震えるのを感じた。何だかんだ言ってすぐ上のこの兄は特別だ。僕らはどこかで『運命共同体』。僕のやることは肯定してくれるし、一緒に手綱を分かってくれる。僕はもっと分かりやすいようにつけ加えた。
「今ね、人間の姿でいれる練習をしているんだ、カラ松も手伝ってくれない?」

 家に帰ると、両親や他の兄弟が集まって、警察に捜索願を立てる算段をしていた。一人だけ振り返ったおそ松兄さんが立ち尽くした僕らを黙って見つめる。そうしたらカラ松が、まるで励ますように僕の右手を握り込んで来た。

<了>