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sugu_yoru
2020-08-03 01:09:52
1955文字
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【タイカケ】青い空、白い空
タイカケ深夜のおえかき一本勝負 第39回お題は「空」です。 アンニョイ。2019-07-14掲載のものの再掲です。
タイカケ深夜のおえかき一本勝負 第39回お題は「空」です。
アンニョイ。
泣いているのを、見たことがある。黒塗りの車から降りた瞬間、思わずといった形でネクタイに染みを作ったのが木の上から見えて、思わず転げ落ちるみたいに十王院カケルの傍に、香賀美タイガは着地した。
青い真夏の空の下、その涙を指摘しようとしたが、もう目元は乱暴に擦られたあとだった。
「アイツ、仕事終わり弱ってることあんよな」
何となく涼野ユウに話すと、彼も見たことがあると言う。それが面白くなくて、悶々と考えていたら秋は過ぎ、冬になり、そして春が訪れた。きっとユウはカケルのことを、上手に慰めることができたんだろうな、なんて思ったりもした。
七月、もう夏になってしまったわけではあるのだが。空は夏の始まりで、大きくも広くもなく、話したかったあの時の十王院カケルに会いに行くには、あの青過ぎた夏の日に戻らなければならない。香賀美タイガはあの夏の、どうにもできなかった自分について、ただただ考えることしかできなかった。
無風の夏は暑い。まだ梅雨は明けず、盛り上がって来た緑の合間から見上げる空は白い。中にいても外にいても何だか不快なので(実はクーラーの冷風が少し苦手だった)、木の上に避難してしまうのは仕方がないことだと思う。
不意に車の止まる音がして、専務つきの黒塗りの送迎車から降りて来たのは十王院カケルだった。クールビズなのか普通に黒いポロシャツを着ている。ぴっちり絞めた襟元が暑いのか、人差し指を突っ込んでため息をつきながら緩めていた。
「前は
……
、ネクタイだった」
思って、声にも出ていた。
「ん~?」
カケルが首を傾げてこちらを見上げるので、ばちりと視線が合わさった気がした。照れて、彼のすぐ脇に飛び降りる。カケルに「~っ吃驚したぁ、タイガきゅんそうやって人を脅すの良くないよ」なんて言われてしまったので「ぅっせぇよ!」って可愛くなく返してしまった。
動いたらどっと汗が噴き出す。「ぁち」って舌の上で不平を漏らしつつ、後ろ頭を掻きながら目の前のオレンジ色をわずかに見上げた。するとタイガの視線から逃れるように、黄色とオレンジ色の綺麗なグラデーションの瞳が、薄い空に向かうのが見える。
「とり
……
」
白い空の中を、黒いシルエットの小鳥の大群が行き過ぎる。それを呟いたカケルの声は何だかあどけなくて、心許ないようにも思えた。こういう時、タイガの方がもっと不安になるのはどうしたことだろう。
「雨が降るのかなぁ? 降るなら降っちゃってくれた方が、少しは涼しくなるかもしれないのにねん」
『上から降り落ちるような、そんな空を待っているの』。別にそんな風には言われたわけではないのに。タイガは自分より必要とされたみたいな白い空を恨めしく思った。だってさぁこいつさぁ、だってだってさぁ
……
。
「ねぇ、タイガきゅん。随分前のことになるけど」
「あ?」
「
……
去年、おれっちが車降りた瞬間泣いたのは、あれ別になんもないんだかんね」
「おー
……
」
思ってたことを相手から言われると驚くもんだ。「だから、忘れて?」って言葉に重なる勢いで「いやだ」って答えていた。二の腕を掴んでしまうし、その肉が車内のクーラーが効き過ぎていたのか酷く冷たい。その体温に凄く不安になるし、遠くに行かないでって思う。
「ちょ、タイガ熱い」
「
……
っ」
「
……
こっちに来ないで」
「いやだ」
いやだ、いやだ。反対の腕も掴んで、ぐっとカケルの頭を胸元に抱え込んだ。制汗剤の清潔な匂いに混じって、カケルの匂いがダイレクトにタイガに伝わって来る。瞳を閉じるとあの時の青い空が浮かぶようで、まるで色々と
……
今回は間に合ったように感じられた。
「ふ」
「え? 何で今度は笑ってんの」
「ふふ、うるせぇよ」
うるせぇ、うるせぇ。でもそれを聞いたカケルの頬は何だか紅潮してゆく。眼鏡の中の目元が一度、透明な膜を張ってから誤摩化すように瞬きした。やんわりと手のひらを胸に当てられて、距離を取られる。その距離が、ちょっと普通の友達に戻るみたいで、タイガは忘れ難く思った。
「うんもー、そんな風に屈託なく笑われる方が何か
……
」
「んだよ」
「おれっち、泣きそうになっちゃうよ」
そう言って、後ろに手を組んで振り返る。手を前に組むのは相手を『拒否』する時の仕草だと聞く。じゃあ後ろ手はどうなんだろうってじんわりそんなことを思いながらなんとか頷くと、「アイス買いに行こうぜ、お前の奢りで」って、タイガにしてはペラペラとそう提案した。
しっかたないにゃ~ってカケルはうっそりと目を細めて笑うから、曇りの空の下、二人はコンビニへ連れ立って歩いて行った。
<了>
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