sugu_yoru
2020-08-03 00:59:44
1588文字
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【嘔吐注意 タイカケ】外聞をはばかる、二人だけの秘密

タイカケ深夜のおえかき一本勝負 第37回お題は「ひみつ」です。 嘔吐注意。2019-06-30掲載のものの再掲です。

タイカケ深夜のおえかき一本勝負 第37回お題は「ひみつ」です。
嘔吐注意。

 寮の廊下で、あ、ペンが落ちたなって思って。しゃがんだりせず、腰だけ折って指先でペンを捕まえる。その時に口の中にせり上がってくるものがあった(いや、重力に従って落ちるに近い)。酸っぱくサラサラしたそれは、固形物を含んでなくて正直良かったと思う。
 ちょうど良く手洗いのすぐ傍だったので、駆け込んでボタボタと胃液を吐き出した。「はー……」っと少ない嘔吐のあと、トイレットペーパーで口元を拭う。そういえば水に溶けるこの紙は、こういったことに向かないんだったと気づくのが遅くて、十王院カケルは唇にへばりついた紙の屑をぺっぺっと便器に幾度か吐き出した。
「うがい、しないと……
 ポケットからブランド物のハンカチを取り出して口を抑えると、迂闊にも扉を閉めてなかったと、立ち上がる前に振り向いた。するとそこに運悪く立っていたのは香賀美タイガで、カケルは急いで便器の方に顔を戻した。
「んぁー……(見られたくない奴に)」
「おめぇ」
「めんごめんご、変なとこ見せちゃって~。僕ちゃんの次で悪いんだけどお手洗い使う?」
 そう言いながら水を流すと、タイガは何と個室に入って来て後ろ手に鍵を閉めた。「へ、何?」ってカケルは大変な気持ちになって、肩越しにタイガに振り返る。タイガは真剣な顔して、「おめぇ、青絵の具塗ったみたいなひっでぇ面してやがる」って低く言った。
……ちゃんと、吐けたのかよ」
「胃液みたいのちょっとだけ」
 そう答えたらウッと今度は大物がせり上がって来た。急いで腰を曲げるが、上手いように吐けない、ただただ胸が圧迫されたように苦しい。すると、タイガが寄り添ってカケルをぴったり抱き込むようにすると、背中を何度も優しく撫でてくれた(個室が狭くて、そうするしかないのかもしれない)。
「昼、何食べたよ」
「う、にとか。ミル貝とか……寿司。会食だったから」
「この季節生ものはこえーんだぞ。……オラ、ちょっとだけ我慢しろ」
 カケルの右首筋からすっと手のひらが差し込まれて、指の幾つかで薄い唇を割ると、少しだけガサガサとしたタイガの中指が口の中に差し込まれる。「ちょっとタイガきゅん、手洗ったの?」だなんて、胃液を吐いたあとの自分の口内を差し置いて失礼にも思ったが、「噛むんじゃねぇぞ」って掛けられた声が優しくて、カケルは大人しく瞳を閉じた。
 そうすると、余計タイガの指の存在感が増して、硬いカケルの前歯を擦るように第二関節まで押し込まれたのが良くわかった。それが、カケルの柔らかい舌を少し押しながらぐっと第三関節まで入り込んできた。酷い嘔吐感がカケルを襲う。
……っ」
「下、向け」
 びちゃびちゃと、さっきとは違って凄い量の吐瀉物が出た。カケルは吐き切るとすっきりしてはぁっとため息みたいに深呼吸する。タイガは一度動きを止めて、なぜか踞るカケルをぎゅっと力強く抱きしめた気がした。息も、荒い気がするし、体温も心配になるほど熱い。その時に……
……っ!」
「オラ、すっきりしただろうが」
「そ、の……タイガきゅ」
「俺、トイレ使うから。さっさと出て、口濯いでくれば?」
 そう言いながらトイレットペーパーでカケルの口に突っ込んでいた指先を乱暴に拭いて、紙と吐瀉物を流してくれる。立ち上がったカケルは、肩を押されて、嘔吐からくる涙目のまま、目の前のタイガをようやく見ることができた。
……秘密にしろよ」
 真っ赤な顔、カケルより涙が出そうな面をして、そして。

「勃、ってた……?」

 バタンッと共に閉じられた扉に、カケルは耳をそばだてようか一瞬迷ったのだけれど。口内の不快さの方が勝ってその場を後にした。自分の下半身のじわじわとした熱には、気づかないふりを決め込んで。

<了>