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えりゅの本屋・べったー+支店
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一次創作
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導くものと刈り取るもの
ノベルスキー日替わりお題。マザーグース、流れ行く河、それってあなたの感想ですよね。
ファンタジー要素あり>少しだけ
だって、だってね。パパったら、ひどいの。
ママが死んで、悲しんでいたのに知らない女を連れてきたの。
そして「新しいママだよ」って言って、笑うの。
ひどいわ。ママはお人形じゃないわ。
壊れたら、すぐ新しいの連れてくるなんて、パパおかしいわ。
新しいママも、イヤな人。
すぐに、あたしと姉さんをたたくの。それも、パパの見ていないところで。
たたいただけじゃないわ。
おなかとか、おしりとか、つねったりするの。
今でも、あたしのお腹には新しいママに抓られた痕が残っているのよ。
見る? 見ないの? ああ、そう。
最初は、赤くなっただけだったけど、何回も、何回も、同じ所を抓るから、そこは青くなって、紫になって、黒くなったの。ひどいでしょ。
だから、新しいママも、あたしは大嫌いになった。
ひどいことする人は、大嫌い。
あたしと姉さんは、毎日泣いていたわ。
でも、パパは言うの。
「おまえたち、そんなにママをいじめて楽しいのか」って。
信じられない。いじめられていたのは、わたしたちだわ。
ひどいことされたの、あたしたちなのに、パパはおまえたちが悪いって、なぐるの。
パパは力がつよいから、とっても痛かった。
あたしも姉さんも、顔やうでに大きなアザができたわ。
そしたら、パパは「みっともないから、外には出るな」って、あたしたちを2階に閉じこめたのよ。
本当に、ひどい。
だから、あたしと姉さんは兄さんに助けてって言ったの。
そしたら、兄さんは「がまんしろ」なんて、言うのよ。
兄さんは、いいわよね。パパの仕事を手伝って、お金も稼いで、おうちももらえるんだもの。
パパも、兄さんも言うの。
「女なんて、なんの役にも立たない。せめて、どこか片づける先が見つかるといいのに」って。
片づけるって、何?
お嫁に行くこと?
まるで、モノみたいに、右から左へあたしたちを動かそうとしてるの?
さすがね。おもちゃのように、新しいママをつれてくるだけあるわね。
だから、ちょっとね。
あたしも、いじわるすることにしたの。
薬屋で、毒を手に入れようとしたけど、断られたわ。
だから、ディナーのスープに、少しだけ腐った肉を混ぜてあげたの。
もちろん、みんな苦しんでた。
ママったら、毒を入れられたんだ! って、騒いでたわ。
気狂いみたいに叫んで、おかしいったらないわ。
でも、お医者様は食中毒だって言ったの。
それは、そうよね。お医者様は、間違ってないわ。
だけど、パパはあいつはヤブだって、文句言ってたの。
ああ、おかしい。
ところかまわずみんなお腹押さえて、苦しんで、のたうち回って。
ママったら、何を食べても吐いちゃって。いい気味だわ。
ああ、でも。
メイドまで、具合が悪くなるとは思わなかった。
それだけは、本当に申しわけなかったわ。
だから、姉さんと旅行に行く予定だったけど、あたしはすぐに戻ってきて、ひどく苦しそうにしているメイドの看病をしていたの。
そしたら、パパとママが具合の悪いメイドに、あれこれ命令するのよ。
あたしは、やめてって言ったのに。
メイドは、とても苦しそうに窓拭きをしていたわ。
あたしがやるって言ったのに、メイドは笑って私が叱られますから、なんて言うのよ。
ひどい、本当にひどい。許せない。
だから、ね。
あたし、がまんするのをやめたの。
薬がようやく効き始めて、眠っていたママの頭を殴ってやったわ。
あたしの分、姉さんの分、メイドの分、あたしたちをたたいた分、抓った分、パパにウソを言った分。
何回も、何回も。
ママ一人で天国に行くのは、かわいそうよね。
だからついでに、お出かけから帰ってきて、ソファでうとうとしていたパパも殴ってやったわ。
ママと同じだけ。いや、ちょっと少なかったかな。
パパの目玉が割れちゃったけど、ぜんぜん気にならなかった。
メイドは、上で休んでいたけど、すぐに気付いたわ。
私の血だらけのドレスをすぐに脱がして、台所で燃やすと、自分がしたことにすると言い出したの。
待って、それはおかしいわって、あたしは、言ったの。
しんぱいしないで、と彼女をなだめたわ。
そしたら、いいことを思いついたの。
パパが死んでいるのを、わたしが見つけて悲鳴あげて気を失うから、あなたがそれに気づいて、ママを見つけたことにしましょうって言ったの。
メイドは最初、そんなことできないって言ったけど、あたしが何度もおねがいしたら、そのとおりにしてくれた。
殴った斧は、どこかに捨てたわ。それからのことは、あんまり覚えてないの。
ねえ、それよりも。
新聞がひどい歌を作ってたのよ。
あたしが、ママを40回も殴ったって、パパは41回だって。
そんなに殴らなくたって、ふたりともすぐに死んだわよ。
ひどいでっち上げよね。
斧で40回も殴ったら、さすがにへとへとになっちゃうわよ。そう思わない?
「
……
うるさい」
男が言うと、その影は揺らめいてすぐに消えた。影が消えた先には、鈍色の濃霧が渦を巻いている。
男は、読んでいた本を閉じると、懐にしまって左手を横にかざした。すると、どこからともなく男の身の丈ほどの大鎌が現れる。
「うざったい、消えろ」
そう言うと、男は両手に大鎌を握りしめ、辺り一帯に弧を描くように、それを振り回した。
すると、渦のように立ちこめていた濃霧が大鎌に切り刻まれたかのように散ってゆき、目の前には轟々と音を立てる大河が現れた。
男に切られた濃霧は、流れ行く河に沿って、すうっと消えていった。
「クリス」
声をかけられて、男
――
クリスが振り返った。
腰までの長さのプラチナブロンド、冷酷にも優美にも見える整った容貌。
まるで天使のような、と表現したいが、それを否定するのはクリスが手にする大鎌と、闇のように黒いドレスシャツとスーツだ。
「なんだ、ジゼルですか」
声をかけてきたジゼルを見て、クリスはつまらなそうにそう言った。
「ごあいさつだな。たち悪そうなのに捕まってたから、助けてやろうと思ってたのに」
ジゼルはそう言って、微笑む。
こちらも、亜麻色の髪に吸い込まれそうなエメラルドグリーンの大きな瞳。聖母かと見紛うほどの美貌だが、こちらもクリスと同じ漆黒のドレスとマントを身に着けていた。
「たち悪そうなのって、ああ
……
アレですか」
クリスは、河の流れ行く先に目を向けたあと、大鎌から手を離す。すると、霞のように大鎌はその場で消えてしまった。
そして、クリスは懐から読みかけの本を取り出して、ジゼルにかざして見せた。
「たぶん、コレのせいでしょう」
「なんだい、それは?」
「現世に行ってきた時に、手に入れたんです」
クリスが手にしているのは、古びたペーパーバックだ。
「酔狂だねぇ」
ジゼルが再び笑う。本なら、この世界にも沢山あるというのに、わざわざクリスは現実世界で手に入れたというのだ。
「なんていう本だい?」
「なんか、古い歌集とか、本屋の店主が言ってました
……
えーと、マザーグース、です」
表紙を見ながらクリスが口にした題名を聞いて、ジゼルが怪訝そうに眉を寄せる。
「ガチョウおばさん? センスがないタイトルだなぁ」
「子供向けの童謡を集めた歌集らしいですが、なかなかどうして面白い」
「それで、そのマザーグースを読んでいて、何故あんな質の悪そうな霊魂にまとわり付かれていたのさ?」
「
……
この歌ですよ」
クリスは、読みかけのページを開いた。
「
……
リジーのなわとびうた?」
「そう」
クリスが開いたページを、ジゼルは横から眺めた。一通り目を通すと、彼女の美麗な顔が不快そうに歪んだ。
「なに、これ? 本当に、コレを子どもたちが歌っていたのかい? それも、縄跳び遊びをするときに?」
「らしいですよ。しかも、コレは実際にあった殺人事件を元にしているそうです」
「じゃあ、あの霊魂は
……
」
ジゼルが言葉にしようとしたのを、クリスは「わかりません」と頭を振って否定した。
「事件があったのも、本当です。が、リジー本人は、裁判で無罪になっている」
「じゃ、あの質の悪い霊魂は何なのさ?」
ジゼルの問いかけに、クリスはさあ? と肩を竦める。
「残留思念かもしれないし、もしかしたら、本人かもしれない。何れにせよ、僕が『刈った』から、跡形なく河に流れましたし、問題ないのでは?」
「相変わらず、慈愛の欠片もない物言いだね」
ジゼルがクスッと笑う。
「慈愛? 僕にそんなもの必要あります?」
「そうだね。ボクは
魂を導くもの
、キミは
魂を狩る者
だものね」
クリスはそう言われて、肯定の意味で顎を引いた。
「この本には、人間の罪深さや、懺悔、戒めが凝縮されています」
「子供向けの歌集が?」
ジゼルが首を傾げる。
だが、クリスは好奇心に満ちた眼差しを、ペーパーバックに向ける。
「それを、子供に向けて歌にする、歌になっていくのが、人間のえげつない処ではないですか?」
「穿った見解だ」
ジゼルがそう言うと、クリスはニヤリと黒い笑みを美しい顔に刷いた。
「それって、あなたの感想ですよね?」
「ちがいない」
ジゼルが笑った。彼等にとって、人間は理解するものではなく、ただ導き刈り取っていく存在。
それだけなのだから。
<了>
2023.07.10
葛木えりゅ
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