sugu_yoru
2023-12-12 00:26:17
1974文字
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【天ヤマ】映画で揺さぶられる九条天⑦

アイナナ 天ヤマ 勉強中。映画に影響されて、大和への気持ちに気づいてしまう九条天。
おしまいです。

 綺麗なものを、見せたいだとか。美味しいものを食べさせたいとか、自分にだけ見せる姿があって欲しいだとか。彼の過去を知る、美しい先輩と、ずっと一緒に居るとモヤモヤするだとか。「これは、恋ではないのか?」天は自問自答する。
「これは、愛ではないのか?」
 天は疑問を自分に投げかけるが、答えは出ず。今ではしっかりと背に回された腕が愛しい。特別に感じる。でもその暖かさすら、罪悪感があった。すると、天の肩に顎を乗せた大和が、何ごとか呟いた。
「今、なんて言ったの?」
 そう聞くと、それまでまるで母親に縋る子どものように天を抱きしめていた大和が、ようやく身体を離した。朝日ではない……紫と青のネオンの中で、それすら眩しそうに微笑んだ大和を見たら、もう駄目だった。
 嗚呼、彼が好きなんだなと、気づいてしまった。
 涙が流れそうになる。
 でも、そうはならずに、九条天は吸い込まれるように彼に向かって首を伸ばしていた。二度めの口づけは天からで、そしてそれは前回より長かったように思える。触れるだけの、拙いものだったけれど。
……はは」
「何が、可笑しいの?」
「お前さんから、言葉を引き出そうって、意地悪なこと考えちゃってたけど。どうでも良くなっちゃった」
「『どうでも』とか、言わないで」
「熱烈なキッスも貰えたし」
「死ぬほどキミ、冷たかった。ホラ、帰るよ!」
 そう言って、手のひらを引っ掴むと、ズンズンと砂浜の出口に向かって歩き始める。大和は、もうとっくに酔いなど醒めているだろうに、うへへへとだらしなく笑って、それでも天の手をぎゅうっと握り返して、大人しく後に続いた。

* * *

「天くん聞いた?」
「? 何をですか?」
「『詩人探偵キキの事件簿』続編制作決定したんだよ」
 十二月、会話相手の誕生日に思い至って、プレゼントを何にしようか考え倦ねているところだった。まるで揶揄うように含みを持たせて言ってくる千のことを、少し意地悪だなと感じる(どうせ、二人の仲を応援してくれているくせに)。
「はい、聞きました。お相手役から」
「ふふふ、そうなんだよ。原作とは違って、『あの子』が出てくる」
「黒江ですね」
「そう。鉄は熱い内に叩けっていう制作会社の姿勢、僕は嫌いじゃない」
「ボクもそう思います。千さん知っています? 原作の方でも動きがあったんですよ」
 今日は、赤いニットを二人で着込んで、外でバレンタインデー向け製品のCMの撮影をしていた。缶飲料のホットチョコレート。Re:valeとTRIGGERの2グループが起用されている。天は千と組む指示があった。
「あ~何か百が騒いでたな『逆輸入』とか言って」
「『詩人探偵キキの事件簿』第八巻、『Boiling』で、クロエが再登場する……正確に言うと、彼と瓜二つの別人ですが」
「そうそう、百曰く日本での盛り上がりを原作者がキャッチしたんじゃないかって言ってた」
「ただ瓜二つを出すだけじゃなくて、凄い良い内容でした。英文で泣いたの、初めてかも知れない」
「もう終盤だからね。十巻で終わりになるって、彼女も言ってたよ」
「え、作家さんに会いに行かれたんですか?」
「そう、続編が決まって番組とのコラボで秋にイギリスに行って来たんだ。大和君の役は日本オリジナル要素が強いから、お留守番だったんだけど」
「はい」
「彼女、とても大和君に会いたがってたよ」
 千がそう続けると、スタッフが大きな長いマフラーを持って現れ、天と千の首元に巻きつける。二人は促されて席を立ち、甘ったるくデコレーションされたスタジオの立ち位置に誘導された。
「お誕生日はお仕事ですよね?」
「勿論、24・25日とLIVEだよ、知ってるでしょ? TRIGGERは?」
「両日歌番組ですね、IDOLiSH7もŹOOĻも」
「僕らも中継で繋ぐって聞いてる。いいね」
「? 何がですか?」
「打ち上げ、演者で出来るじゃない」
「ふふ、皆で千さんの誕生日を祝って乾杯しますね」
 手渡されたホットチョコレートの缶を少し持ち上げて見せると、千は嬉しそうに同じ動きで返してくれた。その所作が美しく、クリスマスイブに産まれたという事実が非常にしっくりくる。24・25日は確かに仕事だ。そしてその打ち上げの後、こっそり二人で抜け出す約束がある。
 天は、もうTVやスクリーンの中で千と大和が並んで居ても、平気だろうなと予測ができる。あの夏の終わりの日を経て、天しか知らない表情や態度を知ることができたからだ。普通に映画の続編が楽しみな己が好ましくて、天は浮かれている自分に苦笑する。
 今日は撮影終わりに、黒江役の二階堂大和と鍋を食べに行く予定である。それに千も誘おうかなと考えながら、滞り無く撮影は進んでいった。

<おしまい>