【ユリ→?レイ】ゆびとゆび

すこし寂しいココアを啜る青年のお話。

 指先が触れて、咄嗟に引っ込めたのはユーリの方だった。
 「わり、」とか何とか、適当に謝ってみたものの、引っ込めた指先の行き先などあてがなくて、とりあえず目も合わせないままに頬杖をついてみたりなどした。謝られた方の男はというと、これまた何か反応する間もなかったようで、一瞬触れられた指の先と頬杖の青年を交代交代に眺めている。
(何とか言えよ)
 完全に八つ当たりだった。おろおろと情けない内心を悟られまいと躍起になる自分がダサくてたまらなかった。
(何か言ってくれりゃ、オレだって)
 そうやって人のせいにするあたり、自分は幼いとユーリは悔しくなった。指先が触れるくらいのことで、何を言うべきだとか、どうすべきだとか、全てがすっ飛んでしまうくらいには、ユーリはこのレイヴンという男に乱されていた。その様はもうまるきり青臭い思春期そのもので、ユーリはますます情けなくなった。
レイヴンというのは警戒心が強い男で、指先どころか服の裾さえも容易に捉えられない男であった。それには彼の背中に何重かにして乗っけられた役目の都合もあったろうが、それ以前にレイヴンが自らと周囲の者たちに課しているひとつの境界のようなものであった。と、ユーリは考えている。

 これ以上は仲良くしないでね。

 暗黙のうちに引かれた透明な境界線は、あの神殿でどこかにほつれが生じたのかもしれないし、何も変わっていないのかもしれない。ただ少なくともはっきりわかるのは、指先が触れるような距離まで近付くことを仲間たちは、ユーリは、許されているという事実である。それはとても喜ばしい反面、指先数cm程度ではこの男の纏う空気はびくともしない。それがますます己の幼さを引き立てているようで、なんだか負けた気になってユーリは複雑な形に頬を歪めた。
 そんな百面相をしているうちに、頬杖で誤魔化した指先に何か厚ぼったくて筋張ったものが触れた。と思ったら、あっという間にその温かい何かに包まれてしまった。
レイヴンのてのひらが、ユーリの指をふんわりと包んでいる。
「せーねんさあ」
 レイヴンは、ユーリの指をていねいに撫でる。
 宝物を扱う子どものような目をして、剣胼胝だらけの細っこい指を分厚いてのひらでくるんで、やわくやわく撫でている。
「指先冷えてんよ」
 はあ、と温かな息で手首の先を包まれたところから記憶がない。気付けば目の前でシナモン入りのホットココアがほかほかと湯気をたてていた。小さなマシュマロが浮いている。先日立ち寄ったノールの港で買ったものに違いない。自分では食べないくせに、この男はこういうことをする。
「ほれ、あったまるよ、ユーリ」
 早く飲みなさいな。レイヴンが促すのを他所に、ユーリは己の指先の冷たさを確かめるようにこっそりと両手を擦り合わせた。指の先が温まったらあんたは離れてしまうのかな。ならもうちょっと寒がりでいてもいいかもしれないな。そんな子どもじみたことを考えながら、それでも格好つけてユーリはココアを大人しく啜った。