【ユリ→レイ】あの日から

おっさんに片想いする青年のちょっとした逆襲のお話。

 あの日からずっと好きだった、という明確な日が思い出せない割に、青年は男のことをそれなりに長い期間見ている自覚があった。見ているというのはもちろん、文字通り視界に収めるという意味以上の、もっと情欲を込めたそれである。それこそあのザーフィアス城地下にある馴染みの鉄格子が頭をよぎったが、それも定かではない。ともかく青年は男を見ていた。情欲を込めて。
 だから男が「青年、俺様のこと見すぎじゃない」と訝しがったその時、青年の心臓は3cmばかり飛び跳ねた。(もちろん、そのようなことはおくびにも出さない青年である。)
「俺様の顔、何かついてる?」
 答えは否だが、「どうだかな」という訳の分からない返答をしてしまって青年は後悔した。『おっさんの顔にはいつでも胡散臭さがひっついている』くらいの軽口を返してやればよかった。幸いにも男は気にならなかったようで、「わけわからん」と目線をそらしてくれたので、青年はそっと息を吐いた。しかし、
「そんなに見なくても、もう裏切ったりしないって」
などと男が漏らすものだから、青年は咄嗟に男の腕を掴んだ。ほとんど反射だった。
「うわびっくりした。なぁに」
……分かってるよ、そんなことは」
「そんな?」
「あんたがオレ達を」
裏切ったりしないって、と言おうとして、青年はやめた。
――大事に思ってるってことくらいは」
男が今度は盛大に耳を染めた。
「そん、え、急に、何」
 普段饒舌な男がしどろもどろになって目を泳がせる様は、なかなかに貴重である。青年は自分がその原因であることも忘れて、暫しその様子を見守った。
 「青年って存外悪趣味よね」と男が小声で漏らす。そんなことは青年が一番知っている。いや、男に出会ってから初めて知ったかもしれない。自分のそのような一面など。そのことに気付いた青年は少々愉快になったので、
「あんたに関してだけな」
と、軽快に笑った。
 多分、あんたを見るようになったどこかの日から、オレは悪趣味な男になったんだ。とまでは、言わなかったけれども。