【この■望に喝采を】

『蹂躙するは我が手にて』『ことぜめ』現行未通過×

頑張るメル

ガラガラと、世界が崩れ堕ちていく。過去も、未来も、現在さえもが虚ろへ融ける。炎で形を失う蝋燭のように、熱湯で失せる氷のように。

その中心に、オレの抱える彼が居た。周りには、人ではない存在たち。好き勝手に相談している内容を、狂気に蝕まれる正気を繋ぎ止めて考える。
白痴の王、世界崩壊の阻止、揺りかごの器、神々の意志。保有する深淵の知識を自分を殺すつもりで引き出し、その理解してはいけない内容を理解していく。


「アンタはイスの種族、だろ」


黒い瞳で彼を見ていた、人間の男の姿をした存在を呼ぶ。僅かに驚いた風に動いたが、すぐに納得しこう呟く。


「そうか。オマエも『前回の記録』を持っているのだったな」


こちらの事情を、完璧に把握している。その情報を得て、彼を抱えなおす。ソイツは少し眉を顰めたが、興味深そうに口元へ手を当てる。


「アンタたちが必要なのは器だけのはずだ」

「そうだな。確かに器そのものの選別は必要ない工程だ。重要なのは、それが器であるという事実だけ」

「なら、器はオレでもいい。そうだな?」


主の示した破滅が、足音もなくやってくる。微睡む王の目覚めが、宇宙を無へと還していく。空も海も、地面すらも既に無い。自身の脈が感じられない、彼の体温が遠のく錯覚がある。それでも確りと腕に彼を抱えながら、ひとならざるモノと交渉する。


「突然と入った彼より、受け入れるように変異させた別個体のほうが安定するはずだ。悔しいが……アンタなら、そういうこともできるはずだろう」


正気を削りながら、彼と彼らの世界を望む。思考を全力で稼働させ、そのために自分の感情を犠牲にする。一切合切を燃料にして、熱を持つ心を冷やして頭を回転させる。刹那の瞬間考えてから、イスの種族は「よかろう」と頷いた。


「我々の目的上、それに問題はない。叶えよう」

ありがとう」


いつの間にかいた無貌の神が、オレの額に一つ指を当てる。途端、確立した自分という根源が揺らぐような感覚がオレを襲う。こんな時も(もう時間の概念も無いだろうに)愉快そうな神を、何処かで羨ましく思う。
その中心に最も近い場所で、神と偉大なる種族が仮初めの空間を組み立てていくのが理解る。ゆっくりと意識が捻れ、次に薄れていく。


「アル。勝手なことをして、すまない」


安堵と不安と恐怖と狂気と正気、他にも様々な感情が綯い交ぜになる。それでも、だからこそ、愛おしさだけが究極に濃く感じる。


「でもどうか、くだらないとは言わないでくれよ」


きっと次に目覚めた場所が、永久の揺りかごになるのだろう。神々の奏でる曲で微睡む白痴の王、その寝床の宮殿。オレはそのための器に成り、使われ続ける。王の夢で、彼らは幸せに過ごせる。王の寝言で、彼らは不幸せにもなる。それでも彼らは生きていく。


「ありがとう、愛してるぞ」




絶望の定めが訪れ、希望の星は潰える。

恐怖すらも飲み込み、万物が白痴へと下る。

尽くを収束させ、全てが終末をその身へ受け入れる。

これは当然の因果で、それは理不尽な法則。