古めかしい日本家屋の一室。自分のために調整されたこの部屋は、いわゆる和洋折衷という装いになっている。畳や障子に不似合いなロッキングチェア、シングルサイズのベッドに天井ギリギリの高さの本棚。
日の差し込む窓を背に、自分は本を読んでいる。人の心理を説いた内容は、なかなかに興味深い。自分は人ではないから。
「ユウにい。ユウにい? ユウにい〜」
パタパタと近付いてくる足音に、読んでいた本を閉じる。座っていたロッキングチェアから立ち上がって、こちらへ駆けてくる幼子を待つ。やがてガラリと開かれた戸から、黄色の瞳を輝かせた小さな兄弟が現れる。
「ユウにいみっけ!」
満足気に笑いながら、その幼子は自分の元へ飛び込む。しゃがみ込んで抱きしめれば、その幼子は喜びはしゃぐ。母に似た色の髪を撫でれば、更に嬉しそうな声をあげる。
「ママが呼んでたよ! オヤツできたって!」
「ああ、もうそんな時間でしたか。ちゃんと伝えられて偉いですね」
「えへへ! コウくん、もう赤ちゃんじゃないもんね!」
「ふふ、そうですか。もう随分、大きくなりましたしね」
幼子をひょいと抱き上げ、そのまま立ち上がる。首元に掴まりながら、その子は楽しそうに笑う。なんということはない雑談をしつつ、幼子と共に母の元へ向かう。
台所に着けば、母がなにかの作業をしているらしい。その背は止まることなく動き回り、忙しなく狭い台所を往復している。
「ママ! コウくん、ユウにい呼んできたよ!」
母を目にした幼子は、元気に手を挙げる。声をかけられた母はピタリと立ち止まり、くるりと振り返り微笑む。その表情は優しさに満ちており、とても可憐で美しい。手を止めこちらへ近付いて、抱えている幼子の頭を撫でる。
「ありがとうな、コウ」
慈しむその手に心底嬉しそうな反応を返し、幼子はその手にすり寄る。それは完成された絵画のように、見事で素晴らしい親子の一コマである。神である自身にとっても、実に微笑ましい光景である。
「さ、机に並べるのを手伝ってくれ。今日のオヤツはマカロンだぞ」
「マカロン! ユウにい、マカロンだよ!」
「うんうん、嬉しいですね。私も甘いものは好きですよ、おかあさんの作ったものは特に」
「あはは、ユウってば嬉しいこと言ってくれるなぁ。あ、紅茶はそっちに置いてあるぞ」
「了解です。コウはバナナジュースで良いですか?」
「うん!」
幸せな家庭、幸せな家族。母と呼ばれる男が一人と、その男から産まれた子供が二人。それは恐らく、異常で異質なことだろう。それを指摘する者は、未だに現れていない。まぁ現れたとしても、自分は母に従うだけである。母と兄弟以外は、全て等しい価値の品。同じ…あるいはそれ以上の格を持つ神が現れたとしても、自分は何も変わらないだろう。母が最優先の人であり、コウはそれに愛された兄弟である。
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