【世界の幕引きに笑えたなら】

『蹂躙するは我が手にて』現行未通過×

メルヘカの舞踏
※永い後日談のネクロニカパロ

長く苦しい戦争が、全て終わった。『核の冬』もとっくに過ぎ、空は光を取り戻しつつある。
あの『偉大なる種族』や『大いなる旧き神々』がどうなったのかは、今も分からない。少しの痕跡を見つけることはあれど、それは存在を決定づける証拠にはならないようなモノだけだ。この滅びた星から去ったのか、終わった世界に失望したのか。

どうあれ今、この星では誰も何も死ななくなった。


だって、みんな死んだから。


ここは箱庭。東の島に建てられた、狭くて高い立派なお城。城下街は王様に仕える兵士がたくさん歩き、王様に逆らう者を探している。兵士は皆、デタラメに貼り付けた肉を引き摺りながら巡回する。兵士以外の民たちは、たまに悪いことをしでかす。兵士に襲いかかったり、物を壊したり。反省しない馬鹿者は、王様の元へ連れられる。そして、兵士になるまで修行を強いられる。厳しすぎる修行、だけど耐えられないなんてことはない。だって、もう死んでいるから。
ここは楽園。オレの故郷に建てた、細くて長い立派な塔。周囲の警備として、戦闘に特化させた死人を配置している。この死人は全て残らず、オレの手駒として壊して作った作品である。島にはたまに、地から這い出た質の悪い死人もいる。そういう奴らは全て、揃いも揃って何かを壊そうとする。手駒の死人に壊させてから、オレの作業場に運び込む。そして、手駒の作品として作り直す。歪すぎる繋目、でも壊れてもまだまだ直せる。だって、もう死んでいるから。

見上げた先の空は、暗い黄色の雲海。厚く広いそれの僅かな隙間から、赤錆色の濁りが覗く。それをボンヤリ眺めながら、楽園に一人で浸る。

塔の屋上に安置された、三つの棺。鉄で作られたそれらには、それぞれ三色の石が乗せられている。宝石なんて可愛らしいものではない、色が付いただけの小さな石ころ。並べられた棺は蓋が閉まっており、中身を決して暴かせない。その周囲には花束ではなく、それを模して作られた死体の部品が飾られている。その部品は主に腕で構成されているが、中には脚や胴体もある。


「みんな、待たせてすまないな。だがあと少し、あと少しだから。もう少しだけ待っててくれ」


棺に話しかけながら、オレは夢想する。かつての繁栄、かつての栄光。そんなものよりもずっとずっと尊く、また素敵なたった三つの存在を。あの四人で集まり笑い合っていた、素晴らしい過去の景色を。


「ああ、そういえば。アルには確か、古い友人がいたな。オレも一度会って話してみたい。キミが覚醒した時、その友人を作れるか試そう。自我の特定さえできれば、肉体は多少崩れていても問題はないから」

「エルの孤児院は、ここからは遠くてな。三つの少女と、二つの男、あと老人の遺体しか手に入らなかった。一応保管はしているが、キミの知り合いかまでは分からない。一度、確認してみてくれよ」

「あと、ロルには専用の内臓を培養しているんだ。粘液を吐いても吐いても、体全体への負担が少なくなる内臓だ。吐かないよう、外から自分で調整もできる優れモノさ。調整の仕方は、記憶に付属させておこう」


ネクロマンシー技術を得ても、あの三人の遺体には手を付けなかった。しかし弔うことや食べることもせずに、今日まできっちり保管してきた。この遺体にいるべき自我を特定し、幸せな活動を繰り返すためだ。

自我の特定は済んでいるが、記憶の処理はまだ終わっていない。この現実に耐えられるよう、記憶の選別に手間取っているのだ。全て残すのは不味いと、先に試作しておいたどうでもいい死体で確認した。運動記憶以外を消すことで起こる不具合があることは、そこらの死体で立証された。自我の年齢も、比較的若く幼めに設定するのが良さそうである。
だから一部、ほんの欠片だけを残すことにした。その記憶の欠片をどうしようか、オレはここ数日迷っている。あの『大いなる旧き神々』を退けてからの月日か、世界を蹂躙していた日々か、それとも戦争以前の日常か。いずれにせよ、オレのことは一度全てリセットしていたほうが良さそうだとは思う。


「完全なキミたちを迎える準備は、着実に進んでいるよ。後はテストをニ、三度重ねてみる予定なんだ。キミたちの記憶だけを植え付けた人形と、キミたちの自我に似せた人形の稼動を観察、壊れずオレの元に辿り着いた人形を参考にキミたちの器と記憶を選別。そうしてオレは、またキミたちに出会えるんだ」


世界の物語は終わり、本は固く閉ざされた。残ったモノたちが乱暴に積み重ねるのは、その後日談を描いた台本。その高く広く歪な山に、オレたちの後日談が混ざるだけ。描いた台本を演じても演じなくても、後日談は終わらない。役者も観客も演出家も、みんなみーんな死人なのだ。永く、旧く、大いなる旅路はどこまでも続く。地も空も既に荒廃しているが、歩む足も腐敗している。


「閉ざされた箱庭で、ずっと共に過ごそう。だってもう、ずうっと前に、この世界は完結しているんだ。後日談がどれだけ永くても、文句を言われることはないさ」


その未来を想像して、ウットリと蕩けそうになる。クルクル、クルクル。屋上で一人、下手くそな踊りを披露する。自分の生誕祭に貰えるプレゼントを楽しみにする子供のように、タイトルも忘れた歌を口遊みながら。