【聡明なる愚者】

『蹂躙するは我が手にて』現行未通過×

とある男とメルの対談

「メルヘカ・タヴィリカの探究心は一体どこから湧き出ているのか、という議題について回答が得たいのだけれど」


私用の地下研究所、自分以外誰もいない筈のそこに現れた男(の外見をした種族)は告げる。珍しいことではあるが驚くことではないので、小さくため息を吐いてからパソコン作業しつつ答えを返す。


「そりゃアレだ、偉大なる種族様にも確実に覚えがあるヤツだ」

「ほう? それは一体なんなんだい?」

「『未知』だよ」


パソコン画面に保存が通知されると同時に、パチパチと打っていたキーボードの音が止む。厳重にロックをかけて、改めて来訪者に向き合う。心底楽しそうに笑う人でなしは、この惑星における四人の救世主を集めたある意味の恩人。


「アンタらだって、『未知』が現れれば飛び付くだろう? 『未解決』だったものの『解決策』を考案して『解決済』にしたい。そんな単純な欲望だ」

「欲望、か。確かに人類にはお似合いの言葉だ。中でもキミは、とびきり強欲な部類なんだろうね」

「そうか? あの三人に比べれば、まだまだ無欲な気がするがな」


導く者、戦う者、謀る者。思い浮かべた順に、彼らは世界で有数の強欲な人間だ。それは彼も知っているだろう。

導く者は『視線』を欲し、狂気的な演説で民衆を導く。
物理的な意味ではなくもっと漠然とした意味でそれは、国民だけでなく世界にまで轟く。そこに善意は勿論、欠片の悪意もないと断言できる。頭が蕩けそうなまでに刺激的な言葉を扱う人間の帝王。

戦う者は『自由』を欲し、吠えるように戦場を踏み躙る。
陸空海の全てを駆け巡る獣は、縛られることを極端に嫌いまた憎む。犬畜生と例えられる彼だが、自分からすると彼は間違いなく狼の類に分けられる。それも頭が痛くなるほどの技術と勇気を保有した賢く狂った狼。

謀る者は『平穏』を欲し、冷たく静かな陰謀を企てる。
参謀としての才を発揮する作戦に、この世の誰が口を出せるものか。内臓が脆いのもまた、彼のかわいい魅力だと思う。予定外を予定内に収めあらゆる困難を乗り越えられる壁にする策略家。

彼らに並ぶは、他でもないオレ。何千回と『未知』に恋しては殺し、また欲する男。人と『未知』を殺した数は知れず、しかしそれらを最期まで忘れることはないだろうと予感する。


「オレ、アンタが好きなんだ」


暗転したパソコンをちらりと見て、また視線を彼に戻す。次の言葉を期待した顔に、期待する通りのことをしてやる。


「だから必ず、アンタのことも解明して 殺してやるよ」


決して逃さないよう視線で射止めながら、まっすぐに告げる。それは甘酸っぱい告白で、ほろ苦い宣戦布告。人類史に残る上で、最も勇敢かつ愚かな一言。偉大なる種族にとって、取るに足りない矮小な生命体からの殺害予告。それはこの場において、彼が最も求めて待っていたものだ。


「素晴らしい! その愚かなまでに深い『未知』への愛と殺意! いやぁ何度聞いても痺れるねぇ!」

「そりゃどうも」


わっと、子供よりも子供らしくはしゃぐ彼に苦笑いする。手を叩いて喜ぶ姿は、どう見ても人間。しかし彼は、致命的なまでに人でなしでロクでなしだ。そのことは彼と関わる上で、知っていなければ根本的にすれ違う。と言っても、彼はまだ他の『人でなし』に比べれば可愛いものなのだが。例えばそう、あの海に顕現した


「アレをもキミは殺すのかい?」


今までとは違う鋭い言葉が、思考を遮る。笑っているのに真剣な表情に、ほんの少しだけ驚く。しかしすぐ平静になって、彼を挑発するように笑う。


「勿論」


彼は僅かに顔を歪めたが、気づかなかった風を装う。返答にどんな感情を抱いているかまでは確信できないが、先程までの無邪気だった彼はもういない。今の彼は『偉大なる種族』で、『先進者』だ。


「知れば狂う知識? 知ってはいけない領域? 大いに結構! 禁断を定義し、追い越し、手を下すのがこのオレだ! 人間失格、神への反逆! 上等じゃないか! 罰を恐れて罪が犯せるわけもない!!」


導く者を真似て、少し大袈裟に手を広げてみる。世界を制するのは、お前たちではない。宇宙を知るのは、お前たちだけではない。この手が、
そう。つまり纏めると、こうなる。たったの一文、されど心が躍る短歌。











蹂躙するは、我が手にて。