【伝言について】

『沼男は誰だ?』現行未通過×

誰かが目を伏せる直前のアレコレ

抵抗は一切なく、全てを受け入れ母体は死んだ。細く白い首は、成人したオレにはあまりにも小さく貧弱で。
どろりと、母体がその形を崩す。そう成っても母体は表情を変えず、なんの反応も示さ無い。遺ったのは泥だけ。それを、オレと月見里さんは傍らで見ていた。

オレと月見里さんは、スワンプマンだ。その原点である母体が死ぬことは、即ちスワンプマンであるオレたちの死を意味する。

月見里さんが、メールを送ろうとスマホを出す。それに習い、オレも同居人に最期のメールを送ることにした。

同居人シンにぃは、オレの義父だ。実の両親は、オレが16の頃に亡くなった。事故ではなく、病気だった。それをずっと診てくれていたシンにぃは、オレを引き取り育ててくれた。決して分かりやすくはない不器用な愛を、ふさぎ込むオレに与えてくれた。恩人の彼に、何でもいいから最期の言葉を伝えたかった。

画面を打つ指が、小刻みに震える。それでも涙は不思議と出ない。伝えたいこと、伝えたかったことはたくさんある。だと言うのに、オレは何てことはないことしか思い浮かばない。


『シンにぃへ。
今までごめん、今までありがとう。
いつか、また会おうな。』


会うのは現世ではないだろうけど。
ボンヤリ考えていると、手からスマホが転げ落ちる。それは力が抜けたわけではなく、手が形を保てなくなったからだ。それを認識すると同時に、足ががくんと折れる。どちゃりと倒れた横に、スマホの画面が辛うじて見えた。メールは送れたらしいことを確認すると、強い眠気が襲いかかる。

視界が溶ける最期に、メールに既読が付いたのを見た。
両親の他界後、ずっと優しく不器用な愛を注いでくれたシンにぃ。もしかすると、スワンプマンかもしれないシンにぃ。
そんな彼にまた会えると、証拠も無いのに安心して。



オレは正しく、泥のような眠りについた。