Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
ムクロジカ
Public
文字/雑多
【その後の話】
『彼方からの君に捧ぐ』現行未通過×
ミナリと誰かの小さな後日談
コクーンポリス建設予定地、そこから近い場所。小さなカフェの角で、自分
…
未鳴 圭一は、もう一人の男と会話していた。どうにも頼んだサイダーには口を付けられず、カラカラとグラスを揺らして氷を鳴らしている。
「へぇ~! アンタ、漫画家なのか!」
「そ、そんな期待してるようなスゴい人じゃないですよ? まだまだ新人だし
…
」
「いやいや、謙遜すんなって! 漫画描くのって大変なんだろ? もっと誇れよ!」
キラキラとした目で、男はこちらを見つめている。彼の名は、ユカワ エイスケ。周囲には名字と名前の頭文字をとって、ユエと呼ばれているらしい。某大学の教授で、次世代型都市コクーンポリスの設計者だ。
『ユエ』の青く綺麗なスカイブルーは、ここに存在しない。雲一つない青空を切り取ったような瞳は、”あの時のあの場所”で伏せられたのだから。
記憶のない彼に、自分ともう一人は拉致された。記憶のない彼に、突然結婚を迫られた。記憶のない彼に、自分は『スカイ』と名付けた。記憶のない彼に、料理を振る舞って貰った。記憶のない彼に、壊れたパソコンを修理して貰った。
記憶のない彼は、褒めながら頭を撫でると驚いていた。その感触はとっくに手から離れていて、思い出すことができない。
そして、選択を迫られたあの場所で。『人類の未来』と『自分の未来』を乗せた、天秤を前にして。
『母』になるのは、『生贄』になるのは怖かった。永遠の英雄とか、人類の救済とか、地球の未来なんてものに、興味はなかったから。
だけど、それよりもずっと、『ユエ』の夢を潰すのはイヤだったのだ。
なのに自分は、彼の夢を踏みにじった。思いきり、容赦なく。
みっともなく泣きながら、情けなく喚きながら。散々迷ったあげくに、自分は彼を確かに否定した。ずるずると引き摺られながら、あの場を離れて逃げ出した。謝罪と嗚咽を口から溢して、名前のつけられない感情で涙を流して。
泣いて、泣いて、泣き続けて、ようやく涙は枯れた。
『
…
婚約破棄、ってやつだな』
追いかけてきた彼が、自分一人を狙うことはなかった。きっとそれは、単なる偶然なのだろうけど。あの時彼は、自分が刃を向けたことに驚いた。『彼だけは協力してくれる』と、そんな風に思っていたのだろうか。だとしたら自分は、とんでもないコウモリ野郎だ。どんなに酷い罵倒をされても、仕方がないだろう。
最期の静かな絶望の顔は、あの髪を撫でた感触よりも強くしっかりと記憶に残っている。今も鮮やかに思い出せる、倒れ伏した彼の表情を。あの、”今”の空のような瞳を。あの、”未来”の空のような血を流して。彼は、『スカイ』だった彼は、『ユエ』は
……
「
…
ユエ。実はボクにも、大きな夢があります」
「へぇ、アンタにも! どんな夢なんだ?」
身を乗り出して、彼は問いかける。その瞳のどこにも、狂気は存在しない。純粋な好奇心に染まって、美しく輝いている。
「ボクは何年も先
…
それでこそ千年以上先にも残るような、スゴいマンガを描いてみせます。未来の彼方でも読まれるような、人を楽しませるマンガを」
カランと、グラスの氷が溶けて揺れる。知らないうちに、グラスをおおう手に力が入っていたようだ。
「すげー夢じゃん! あ、じゃあさ先生! 俺の作ったコクーンポリスに、先生の漫画を置かせてくれよ! コクーンポリスは、俺が千年先も残すからさ!」
楽しそうに彼は笑う、『ユエ』とはとても似ていない顔で。子供のようにユエが笑う、どこか『スカイ』に通じる顔で。
ああ、確かに彼は”ユエ”なのだと。否応なしに認識させられて、泣きそうになる。それでももう、自分は泣けない。あんなに泣いたのだ、泣くわけにはいかない。
捧げる。
今、”この瞬間”に。
今、”彼方の君”に。
「ありがとう」
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内