2023-12-07 16:31:45
3569文字
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ゆりかご

リヴァイ?×神様エレン

見晴らしのいい、俺だけの特等席。視線の先には天を仰ぐほどの壁なんて物はなくて、地平線を終着とした空だけが広がり続けている。
「平和だなぁ」
進み続けた。進み続けることしかできなかった。そうして沢山の命を奪ったはずなのに、俺は気付いたら神様と呼ばれる存在に成っていた。
巨木から伸びる枝に腰を下ろして、参拝に訪れる人々を眺める。縁というものは優しく、残酷で、ここに来る誰もが俺の知る人ばかりだった。
「その、僕たち、結婚しました!!」
「ちょっと、声が大きい!!……あたし達、幸せになります」
顔を真っ赤にしたファルコの横には相変わらず気の強そうな、しかし嬉しさを滲ませて頬を染めるガビの姿。
「今度、店を開きます」
「美味しいご飯で、皆さんを幸せにしますので!」
サシャとニコロさんの二人が肩を並べる。涎を垂らすサシャを、仕方なさそうに、幸せそうにニコロさんは見つめていた。
「巨人歴の文献が見つかりました!!うひょおー!!」
「ハンジさん、落ち着いて下さい!」
「はは、元気が有り余ってるな」
……お前は少し呑気過ぎるぞ、エルヴィン」
「ミケに同意だな」
ハンジさん、モブリットさん、団長にミケさんにナナバさん。楽しそうに笑って、全力で生きている姿が嬉しいのに、そこにはあと一人足りない。
「子供が、産まれました」
「ミカサに似ますように!」
「アニと子供が、無事でありますように」
……その、頑張ります」
「今度こそ、ユミルと幸せになるんだから!」
「今度こそって、なんだそりゃ」
「残るは俺とライナーとベルトルトだけだぜ!?俺たち三人、良い人が見つかりますように!!」
ぱちんと手を合わせるコニーを、他の奴らが笑いながら見ている。ミカサの抱いた布の塊を覗き見れば、ふにゃふにゃとした紅葉色の手が飛び出してきた。
誰もが幸せそうで、確かなまでに存在していて、その輪の中に加われない寂しさはあれど、心に募るのは愛しさだけだった。
「あれは……
陽が落ちる頃、ゆっくりと階段を登ってきた姿は、あと一人足りないと焦がれた人で。その腕に抱かれた子供と並び立つ女性を見た途端に、咲いた花が急激に萎れていくような、そんな妙な不快感が胸に広がった。
「ほら、教えただろう?」
「えぇと、ぼく、三つになりました!」
「ふふ、それは二でしょう?三はこうするの」
下手くそな二本指が、細い指によって三本指になる。微笑ましくて、温かくて、幸せで。この胸に広がる不快感が嫉妬ではなく、木枯らしが吹いた時のような、そんな哀愁へと変わっていく。
幸せであってほしいと願っていたのは本心で、その幸せが俺であれば良いと願っていたのも本心だった。泣きたくなるような気分なのに、涙なんてものはちっとも出てこない。神様になってしまったから。
「リヴァイ兵長の、子供かぁ……ふふ、似てるかも」
自力で三本指を立てようと、悪戦苦闘する幼い子。見守っていれば、ようやく出来たと目の前に突き出された。その時、確かに目が合ったのだ。小鳥のような小さな口が何かを言う前に、そぅっと唇に指を当てる。
「内緒、な?」
こくこくと頷いた頭を撫でる。控えめに伸ばされた手を取りながら、その可愛らしさにゆっくりと目を細めた。本当に幼くて可愛くて、だから魔が刺したのかもしれない。神様というのは傲慢で、無慈悲で、だのに時折優しさを見せるものだと、何処かで知っていたはずなのに。
俺の腕の中には、ほろほろと涙を流す幼い子の温もりがあった。少しだけならと連れてきてしまった挙句、こうして泣かせてしまったものだから、罪悪感のせいで息苦しい。
「うぇ、え……ぱぱ、ままぁ……ひぐっ」
「ごめん、ごめんな……良い子、可愛い子、どうか泣かないでくれ」
濡れてしまった柔い頬を、壊してしまわないようにそっと拭う。兵長に似たグレーの瞳がぱちりと瞬いて、まつ毛についていた涙の露が落ちていった。
「我儘な神様でごめん……
……かみさまも、わがままなの?」
「あぁ、それもすごく我儘だ」
「ぼくもわがままだからいっしょだね」
ふにゃりと笑うその顔には、先程までの恐れはなくて。それが酷く綺麗で、眩しくて、愛おしくて堪らなかった。
産毛の生えた額へと口付けをしてやると、きゃあと可愛らしい声をあげて小さな手で頬を押さえていた。
「さぁ、そろそろ時間だ。俺のことは、どうか忘れておくれ」
「それもわがまま?」
……どうだろうな」
遠くから声が聞こえる。我が子を必死に探す親の声。俺の知る魂の持ち主は、随分と立派な存在になってしまったらしい。
「まっすぐ進み続けるんだ」
「かみさまは、いかないの?」
「行けないんだ……ほら、パパとママが探してる声がするだろう?」
……また、会える?」
「お前が覚えていたら、きっと」
嘘を吐いた。七つになれば全て忘れると知っていながら、約束だと嬉しそうに駆け出した子供に。忘れられてしまうことが寂しいと思った後で、やはり神様というのは傲慢だと、そう思った。
***
あれから幾年も経った。ミカサとジャンの子供は高校生になったらしい。反抗期なのか思春期なのか、父親がうざいとよく愚痴を言いにくる。それを迎えに来るのはアルミンとアニの子供だ。良い感じの雰囲気を醸し出す二人に、俺の方が恥ずかしくてたまらなかった。あんなに小さかったのにと、自分の子供のように思っているからかもしれない。
兵長の子供とは、あの日から会うことはなかった。当然と言われてしまえばその通りで、それでもやはり寂しさは感じてしまうように出来ている。
生きていれば、二十歳だ。一体どんな風に育ったのだろうか。そんなことばかりを考えてしまうのは、俺の最初で最後の神隠しをした存在だからだろうか。
「会いたいと思うのは、可笑しいんだろうな
風が吹く。柔らかな風が髪を揺らして、視界を狭める。そうして霞む視界に見えたのは、あの子の姿。
「ずっとここにいるんだな」
……なんで」
「なんで?俺の心を奪ったくせによく言う」
魂の形はあの子のもので、しかしその姿形は兵長と瓜二つ。あぁ、混乱してきた。俺の目の前にいるのは誰なんだ。
「父親そっくりだろう?」
「そ、んな、ことっ」
……代わりだと思ってくれて構わない」
「いや、なに言って……
本当なら触れられるはずのない手は、火傷をしてしまいそうなほど熱い。輪郭を辿るように滑り、ゆっくりと唇を押し潰される。
「だから、俺を選んでくれ」
……っあ」
真っ直ぐな目に、記憶の中の兵長が重なる。身を焦がすような視線と、脳みそから溶かされるような甘い声。違うのに同じだと錯覚してしまう自分が憎たらしくてしょうがないのに、身も何もかも全てを委ねたくなる。
「っだめだ!!お前が戻れなくなる……!!」
「そんなに寂しそうな顔をしてよく言う……戻れなくても構わない。俺は、あんたが手に入るならなんだっていい。だから、なぁ、お願いだ」
甘美でしかない願いだった。神様の俺が、その願いを叶えようと手を伸ばしたせいで、突き放したいのに突き放せなくなってしまった。小さかったはずの手は無骨な男の手に変わって、まるで骨の形を確かめるようにゆったりと背中を撫でてくる。
「ふ、ぅ……や、まって、まって……!」
「もう待つのは懲り懲りなんだ」
「ひ、ぁ、あぁやんっ……!」
……ずっとあんたの夢を見てた。だから、あんたで俺は精通したし、あんたじゃないと抜けなくなった」
「あ、あ……ひぅっ!?」
押し倒され、抱えられた腿に擦り付けられたのは質量を増すばかりの熱。求められることの喜びで溢れた頭がぐらぐらと揺れた。重ね合わせた布の隙間から差し込まれた手で、するりと這うように脱がされていく。
もう戻れない。この子のことも、戻せない。この子だけならまだ後戻りできるのに、どうしようもなく欲しいと思ってしまったせいで。
……夢で見た通り、綺麗だ」
「う、ぁ、見ないで……
「あと、可愛いしエロい……なぁ、名前は?」
「それは、本当にだめだっあ、あっぅう!」
「ここ、気持ちいいんだろ?もっとしてやるから……お願い」
また、願い事を言われてしまった。心からの願いは、叶えなくちゃいけないから。そうなると俺は、俺の名前を教えるしかなくなってしまう。
「ひ、ぁ………ぇ、れん、えれん、っあぁあ!!」
「エレン、可愛いエレン、好き、好きだ……
あの日の俺がしたように、額へと口付ける目の前の子。至近距離で見つめ合って、どちらからともなく唇を重ね合わせた。泣けないはずの俺から溢れた涙がなんだったのか。その理由を知ることは出来ぬまま、与えられる快楽にいつしか身を任せていた。