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スサ
2023-12-06 21:25:34
1829文字
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【ゲ謎】酒盛りの夜の話
「子守のばあさん」が気になっていて、ここには書ききれなかったけどそんな話をあの最高の酒盛りの夜にしていても…いいじゃない?という幻覚の話です。
「子守のばあさんというのは、どんなばあさんじゃったんじゃ?」
酒盛りの合間、のんびりした口調で幽霊族の男が聞いてきた。老人のような白髪と気合の喋り口調だが、今の水木はもう彼をじいさんとは呼べない。
「ん
…
? んー。どんな、ったって
…
」
美味い酒だ。こんな美味い酒は今まで飲んだことがない。天狗の酒がすっかり回って、水木の答えはおぼつかない。ゲゲ郎はせっつきもせず、ただ水木を見ている。まるで長年の友のように。
実際、友になるのに必ずしも日数が必要なわけではない。かつて戦地に向かう船で友となった者もいた。
「なんでばあさん?」
「お主、言っておったろう。妖怪の話は子守のばあさんに聞いた、とな」
「ああ
……
」
くい、と酒を煽って、水木は瞬きした。そうして、記憶を辿るように目を細める。
「どんな
……
、どんな
…
、」
とろんとした目を彷徨わせながら、水木は真面目に思い出そうてしているようだった。彼の脳裏にはどんな子ども時代が思い浮かべられているのだろうか。
「うん
…
、そうだな。うんと優しいばあさんだったよ」
顔を上げた男の丸い額を釣瓶火が青く照らしている。計算高く立ち回ろうとしていてもどこかに青くささが残る男は、てらいのない様子で言った。それがあんまり素直な物言いだったもので、ゲゲ郎はちょっと笑ってしまいそうになった。
「なんで笑う」
むぅ、と眉間に皺を寄せ、水木は軽く睨んでくる。ゲゲ郎、仮初にその名を与えられた男は今度こそ笑った。しかし、それは侮るようなものではなかった。
「良かったと思うたからじゃよ。お主の後ろにおるんじゃもん」
「え?」
ぱちくりと瞬いた目が、釣瓶火の反射できらりと輝いた。そういえばこの男の目は青い色をしている。遠くに霞む稜線のような。
「ばあさんが?」
「多分、そうじゃろな。優しそうなおなごじゃよ」
「
………
、そ
…
そうか
…
」
水木は虚をつかれたような顔をして、それからゆっくりと自分の背後を振り返る。しかし、幽霊族の男が見ているらしい老婆の姿は残念ながら見つけられなかった。ただ古い墓地があるだけ。
水木の目がまたゆるゆると揺らぐ。
「ガキの頃はよ。小さい頃だ。時ちゃんより小さかったかもしれん」
「そりゃ、ほとんど赤ん坊じゃな」
ハハ、と水木は笑った。笑うと目元がふっくらとして、それが何だか幼気にも見える。
「なんでかは覚えてねえ。だけど、俺はばあちゃんに妖怪の話してもらうのが好きだったんだ。枕返しだの、から傘お化けだの
…
」
「会いたきゃ呼んでやろうか。今のお主なら見えるじゃろうて」
水木は目を丸くして、それから陰のない顔で笑った。ゲゲ郎が泣き上戸なのに対し、彼は笑い上戸なのかもしれない。
「いいさ。釣瓶火には会えたしな」
な、と先ほど煙草に火をくれ、今は酒場の宴会を照らしてくれている青い大きな火の玉を見上げ、人間の青年は屈託なく笑う。
青年。そう、青年だ、水木は。ゲゲ郎はそう思った。こやつの魂は、まだ随分と若いと。
「なぁ」
気持ちよく酔っ払った水木は、体をわずかに揺らしながら声をかけてくる。
「なんじゃ」
「天狗の酒って言ってただろ」
「ああ。そうじゃ」
「天狗ってなぁ、
…
本当に鼻がでかいのか?」
途中で真面目な声になったので、なんじゃ、と思ったゲゲ郎だったが、真剣に聞いてきたのはそんな他愛のないことで。
「お主
…
」
子どものような目で答えを待っている男に、ゲゲ郎は肩で息を吐いた。愉快な気分だった。
「時ちゃんより童のようじゃぞ」
「なんだと?」
水木の眉は上がったが、だはは、と結局彼は笑いだした。
「ゲゲ郎がばあさんの話するもんだから、つい、な」
不思議な男だとゲゲ郎は思った。そして、妻の気持ちが少しわかるような気もした。大げさな気持ちや言葉ではない。道行きに幸あれかしと思うような、そういう気持ちだ。
気がついたら、幽霊族の男も笑っていた。 彼自身が子どもの頃には見せなかった、そんな気持ちにはならなかった穏やかな顔で。
「
…
実はの、ここだけの話」
「ん?」
内緒話をするように声をひそめたゲゲ郎につられるように、水木も真面目な顔で頭を寄せてくる。
「天狗はな
…
本当に鼻が大きいのじゃ」
は
…
、と空気をもらすような声の後、水木は大声で笑い出した。
「やっぱりそうなのか!」
そうじゃ、そうじゃ、と歌うように答え、ゲゲ郎もまた笑った。
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