sguearth
2023-12-06 20:51:50
2786文字
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遥なる先へ

記念すべきガーリーSS初作品

ふうー、ベッドに腰を掛けて煙草を一服する
何?病院で煙草など吸うな?
良いじゃないか、個人部屋だしちゃんと窓を開けて換気しているし、何より私の残された時間はせいぜい後「数カ月」なのだから

私の名前は八代通遥、もと防衛装備庁技術研究部「元」室長だった男だ

長年の無理が祟ったのだろう、煙草アルコールコーヒーの量が増え続け発覚したときにはもう手の施しようが無い程ボロボロだった
医者にはどうしてここまで放っておいたんですか、手は尽くしますが覚悟はしておいて下さいと散々言われた

だが、それでも私は私の生き方に後悔していない

ザイが消えたのを確信し、我々はグリペンを始めとするアニマ達を勝利の歓声と共に迎える筈だった
だが、帰って来たのはオートパイロットで帰って来た無人のドーター機と変わり果てたグリペンを抱き抱え、この世の終わりを見て来たかのような鳴谷君の表情であり、その顔を見た瞬間、その場にいた全員が何が起きたかを瞬時に理解した

船戸は年甲斐もなく号泣し、私は急に気分が悪くなり、私室に戻り、そこで1回嘔吐をした後泣いた

予想と想像、そして覚悟はしていた筈だった、アニマ=ザイであり全てが解決すれば彼女らは綺麗にこの世から消え去ると

しかしいざ現実を目の当たりにすると自分の想像を超えて衝撃と喪失感に襲われたのに今更ながらに知った

鳴谷君は泣いていた、当然だろう、グリペンの為に彼はどれほど苦悩し行動したか、彼の痛みは私が一番良く知っている

しかしここに至って自分の気持ちに気付かされた、姪の蒔絵以外家族のいない私にとって彼女らをいつの間にか家族のように思い、気が付けば鳴谷君に嫉妬すら覚えていた事を

戦後、私は自分の責任の仕事にある程度果たし、宇宙開発事業を軌道に乗せた所で一線から引き、私設の研究事業に全生涯を捧げる事を決意した、すなわち未来人共の怨念と執念の結晶たる叡子理論の完成、いや、さらなるその先へ行く事に

自称常識人はこう言うだろう、あれは千年先の理論だ、今の時代の人間には到底不可能だ、あるいは完全に神の禁断の領域だ、人間に扱って良い技術では無いから封印すべきだと

だが私は傲慢と言われようがあいにく常識の範疇に収まる才能では無いと自負している、否、もはや神の領域を犯す覚悟だ

勝算はあった、何故なら例えば類人猿の時代でもアインシュタインのE=MC2の方程式は確固として存在し、そのルールの元に宇宙は運行しているからだ、要はいつ発見するかどうかなのだ、卑怯と言われるかも知れないがすでに叡子の法則があると「認識」し、解っているのなら叡子の観測と発見、そして基礎理論の構築は私にとってそう難しい物ではなかった

しかし私の目指す物は能無しの未来人共の猿真似ではない、未来人共は叡子エネルギーを取り出す際最低でも人間一人の犠牲を必要としていたらしいが私から言わせれば理論の完成と進化を諦めた負け犬に等しい
上海奪還作戦のライノの顛末の、特に何処からか機体に燃料補給のレポートを読んだ際私の推論は確信に至った、すなわち叡子理論は代償無しにアンフィジカルレイヤーから無限に等しいエネルギーを取り出せる可能性があると、人類が創世から夢見て来た恒久のクリーン・エネルギーを実現し、間接的にザイに繋がる滅びの未来を防げると

そう、決めたのだ、私は自分の全才能全生涯を賭けて彼女らに再び合う為に、千年時を早めて叡子理論を完成させる事に、彼女らにせめて人間らしい幸せを与える為に、否、ここまで来たら正直に告白しよう、家族と言う物に恵まれなかった私自身の身勝手で自己満足の家族を作りたいと言う「欲望」の為に

そしてあれから10年以上の月日が流れた、鳴谷君とはもうしばらく会っていない、グリペンと約束した未来を守る為にパイロットとして戦っている事は知っているがあまりに壮絶な人生である事は容易に想像が付く、私は基本無神論者であるが一時期宗教書哲学書を読み耽けって、そして改めて神あるいは運命なる物を呪ったぐらいである

いつしか私の髪に白い物が交じり初め、体力の衰えを感じ始めたある日、激痛と共に呆気なく終わりの日がやって来た

畜生、畜生、ここまで来て、それでももはや終幕は変えられない、私は八代通叡子理論改第八稿(仮)のファイルが入った携帯端末をベッドの上で力なく握りしめる

元々少なかった私物は全て処分し、叡子理論の副産物で産まれた数々の特許からなる財産は宇宙開発財団と姪の知寄蒔絵、そして(彼は嫌がるだろうが)鳴谷君名義に残す処理はやり終えた後はこの理論を数少ない理解者である蒔絵に託す事だ、元々一周(それどころでは無いだろうが)前のドーター・アニマの開発者だけあって彼女の才能は私と同格かあるいは上だろう、それでも彼女からさらに世代を重ねないといけないだろうが必ずや彼女は私に出来なかった改良型叡子理論を完成させてくれると信じている

疲れた、また身体に痛みが走り薬の副作用が駆け抜ける、なんと言う事だろう、ここに来て私の頭脳に天啓とも言うべきアイデアと理論が降りて来る

私の構想では彼女達を何の代償も無しに完全に人間として生まれ変わらせると言う事だった
無論今でもその構想に変わりは無いがやはり時間が掛かり過ぎる、私は当然の事、鳴谷君や蒔絵が年老いた後、下手をしたら死後何百年後の事であろう

それではあまり意味が無い、が、ここに来て叡子理論は質量に捕らわれない、時間の影響を受けない事を思い出した、ザイは何処からやって来た?そう千年の後と千年の前の時の彼方の果てだ

タイムパラドックスを駆使し、「今すぐ」彼女達の再生は可能か?いや、もっと大胆な仮説、「最初から何も起きなかった、彼女達は最初から人間の学生として鳴谷君明華君と普通の学業生活を送っていた」そんな神の所業すら可能では無いか?

最後の力を振り絞り、基礎理論ともアイデアすらとも言えない我ながら狂気の妄想を文字に起こし、蒔絵にメールで送り、可能な限りの外部ストレージに保存をし、クラウド上にアップをし、止めにアナログの紙に出力して原始的な金庫に放り込んだいつかこの狂気が形になる事を夢見て

そろそろ眠くなって来た、私は明日、もう二度と目が覚めないかも知れない、せめて彼女らと鳴谷君が穏やかな人生を送っている夢を見る事を祈って、眼を閉じる

後書き
遥が結構女々しいですがこれはやっぱり自分解釈の遥なのである程度意図的に原作の解釈に変更加えています、家族構成が謎の遥ですがひょっとしたら原作では愛妻家かも知れませんし、グリペン達アニマが人の姿を捨てて元の戦闘機に戻る事をあっさりドライに受け取るかも知れませんしね
初めてのSSは疲れた