sguearth
2023-12-06 20:46:47
6264文字
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水燕の憂鬱

冬コミ合同誌第二弾用です、今回は全面軽いノリのギャグ

その真紅の災いはある日突然やって来た

『このままだと到底この基地は持たない』
冷や汗と共にそう呟いた普段は百戦錬磨にして冷徹なカジンスキー中佐の青ざめた顔は今だに忘れられない

私の名前はMIG-29SMT-ANMラーストチュカ
アニマのみで構成されたロシアの誇り高き第972親衛航空戦隊バーバチカの末席である

だが今はそんな肩書などどうでもいい、いや、もはや何の役にも立たない、それほどの緊急事態だった

その薄桃色の『ザイ』はある日突然イポーシュカのマスターパイロットと布告と共に我が基地に現れたのである

「私はこの間の中国タイの二国間のDACTでそちらのSU-27ファミリーの姉妹J-11Aに圧勝した!勝者の当然の権利としてロシアの、この基地の美味しい物をお腹いっぱい要求する!」

いやそのDACTはあくまで中国タイとの物で直接我々と独飛が戦ったものではないしそのJ-11Aは初期型で本来のジュラの実力には到底及ばないしそもそもどうやってこの基地に侵入したセキュリティや警備兵は何してたとあらゆるツッコミを無視してザイJAS-39-ANMはそれから一週間以上我が物顔で基地に滞在し味に細かく注文付けながらひたすら料理を食べまくった

5日を過ぎた辺りから給養班の疲労は極限状態に達し私はカジンスキー中佐にこのままだと基地の備蓄が後数日で尽きる、至急本部に緊急支援要請をしなければならないと疲れ切った顔で吐露された

だが今から考えればこの事態ですらこれから起こる事に比べたらまだまだ前哨戦に過ぎなかったのである

今日も相変わらず食堂で忌まわしきJAS-39が軽々と大皿5枚程平らげイポーシュカのパイロットがひたすら周囲に頭を下げ回りのロシア兵達が歓声を上げながら煽り続けていた
いや楽しんでいないで止めさせて基地から追い出せ我らがロシア軍人よ
そんな時さすがに見かねたのだろう、我が愛しき可愛い可愛いSU-27-ANMジュラーヴリクことジュラが憤懣やる方ない表情でJAS-39に詰め寄ろうとしていた
「おい!いい加減にしろこのピンク色!もう十分に食いまくっただろうがいい加減日本へ帰れ!それにこないだの姉妹達によるDACTの結果なんてあたしはあんなの
だが頭に来すぎていたのだろう、勢い込んだあまりジュラのあまりに小さく軽く愛らしい身体は椅子に足元を引っ掛かけ空中に舞おうとしていた
危ない!ここは私が颯爽とジュラをお姫さま抱っこで救い出さなければ!
だが私より一瞬反応が早く例のイポーシュカが思わず見惚れてしまう程見事な動きで稲妻のようにジュラを抱きかかえたのである
「大丈夫か?まったくアニマの時のお前らは普通の女の子と変わらないんだから無茶したら駄目だろう(CV逢坂良太)」
「あありがとうお兄さんおかげで助かった

その時私の脳内に激しいアラートとサイレンが鳴り響いた

兵士に必要な物とは何か?様々な要因があるが
その中の一つに説明困難な直感力、危機回避本能と言うのは確かに有るのだろう
一見すると敵の姿が見当たらない、目視はおろか各種センサーにも何も引っ掛からない、だが理屈抜きに空気が嫌だ、ここから先は避けて迂回しよう、そう思いその場を回避したら後から実はそこに巧妙な伏兵なり罠なりがあり迂闊に侵攻していたら全滅の危機があって危うくそれを免れたまれに聞く話ではある
そしてこの日の夜の私はまさにその危機的感覚に襲われていた

ジュラがシャワーを浴びている隙を狙い本当は一緒にシャワーを浴びてジュラの色白で繊細な柔肌を私自ら懇切丁寧にケアしたい欲望を必死に抑えジュラの私室のロックを外し(ちなみにジュラの部屋のロックは電子物理共に全パターンとうに解析済みである)
部屋に入る
一歩踏み出したとたんむせ返るようなジュラの匂いに立ちくらみがする
いけない危うく理性を失ってジュラのベッドに朝まで潜り込む所だった
涎と欲望をどうにか吹き払いジュラの部屋の机の上を見る
案の上日記代わりにしているのだろう簡素な一冊のノートがあった
私は覚悟を決め恐る恐るノートを開き日付の最後のページを読んだ
そこには普段のジュラからは考えられない程の小さく可愛らしい丸い文字で予想通り、否、予想より遥かに最悪な文章が綴られていた
『ああ、イポーシュカのお兄さん、どうしてお兄さんは極東スウェーデン人(注、重度の日本人グリペンギークの事)であって極東ロシア人でないの?
お兄さんが極東ロシア人だったらSUシリーズのラインの美しさに二人きりで一日中語り合えていたのに
憎い、極東スウェーデンが憎い!』
文章のあちこちに絵文字やハートマークが多用されおまけにデフォルメタッチの可愛いジュラと美化200%のイポーシュカと思わしきイラストが止めに添えてあった

その瞬間、私の中でクソッタレのイポーシュカ野郎はボギーからバンディットに変更された

と言う訳だ、今度こそあの憎むべき我らが仇敵たるイポーシュカを二人がかりで殺る」
次の日私は誰もいない時間の食堂に妹のSU-57-ANMパクファをこっそり呼び出し、かねてからの思いだったイポーシュカ抹殺計画を打ち明けた
「挟撃だパクファ、お前は最新鋭第五世代機でありアニマであるお前にも備わっている色覚妨害迷彩クロマチック・ステルスで背後から襲え、何なら羽交いじめにして拘束するだけでいい、後は私が正面から止めを刺す、ああ、あのイポーシュカのマカーキ猿野郎をついにこの手で仕留められるのかと思うと」
『お断りしますー』
「そう、正面からお断りって断るの早っ!
何で!?パクファお前はあの私達の輝ける星であるジュラを毒牙に掛けようとするイポーシュカに対して何も思わないのか!?」
『だってイポーシュカ鳴谷さんって優しくてカッコいいじゃないですかー、こないだのオフも日本の秋葉原へ連れてってくれましたしー』
いつの間に!?普段分単位でスケジュールが詰まっている私達をどうやって!?いやもうそんな事をツッコむ気も失せてパクファにさらに問いかける
「ちょっとまてパクファ!秋葉原でイポーシュカと何をしてたんだ!」
『何って私を労いとして秋葉原を案内してくれてたんですよー、二人きりでー、俺もたまにはグリペンのお守りから解放されたいしなと苦笑しながらー、道行く人達にカップルと間違えられたりしてすっごく楽しかったですー』
認めようイポーシュカ、貴様は確かにかの噂の「三本線」に相当するエースパイロットだよ、何故こうも戦闘機のアビオニクスのみ的確に撃墜してくる!
パクファは呑気にパンケーキなんぞを頬張りながら楽しそうにさらに言葉を続けてくる
『それでですねー食べ歩きしながら大通りを歩いていたら突然メイド喫茶兼執事喫茶の店長さんに声をかけられまして、外人のカップルさん?と言われながら『き、君たち!もし時間が余っているならちょっと手伝ってくれないか!繁忙期なのにバイトの子達が女の子も男の子も急に休んで来られなくなってしまって、と、とにかく手伝ってくれたらお礼のバイト代ははずむから!』とそれでせっかくだからとお店を手伝う事になりましてー』
ちょっと待て、その話長くなりそうか」
『ええー、SS一本分ぐらいにはー』
「要点と最後だけ簡潔に話せ!全部を聞いているヒマは無い!」
『えー、調理場での騒ぎの話が面白かったし執事姿の鳴谷さんが凄く似合っててカッコ良かったのにー、まあ良いです、それで頑張ってくれた上に自前のエプロンドレス凄く可愛かったよ!ひょっとしたらレイヤーさん?と褒めてくれてさらにバイト代たくさん貰っちゃいました!一万円って始めてですー!』
昨今の戦闘機の値段は私のようなどちらかと言えば旧型に属する物でさえ改修費運用費を含めれば軽く数十億以上はする、まして我がロシアの技術の粋を集めた第五世代機と言ったら最終的に一体どれくらいするのやら、果たして私達アニマの扱いがこれで良いのだろうか
話がそれた
『それでその後貰ったお金でとらのあなやアニメイトを梯子して前から憧れだった日本の大人気絵師さんのトーサカ・アサギ先生挿絵イラストのライトノベルいっぱい買えたんですよ!秋葉原すっごく楽しかったです!あ、もうあらかた読み尽くしたんで後でラーストチュカに貸して上げます!ぜひ感想聞かせて下さいねー!』

何か体よくはぐらかされた気がする、とにかく今夜のイポーシュカ暗殺ミッションはやる気が削がれ、私は半ば強引に押し付けられた大量の文庫本と共に仕方なく自室に戻る
ヒマを持て余したのでベッドに寝転んでいくつか読み始める
なるほど、どれもこれも中々に面白い
特にやたらジャパンカルチャーに興味を持っているパクファのお気に入りだけあってトーサカ・アサギとやらの絵は大変美しく、何より品性があった
しかし気のせいだろうか、描かれている数々の美麗な少女達が何故か我らアニマにどことなく似ているのは
この凛とした銀髪の少女は我が妹SU-47-ANMベルクトを彷彿させるしこの勝ち気な金髪の少女は突撃しか能のない日本のF-15J-ANMにどこか似ていた
うむ、容姿こそ違えど態度とは裏腹に中々素直になれないこの娘はジュラにそっくり
ここまで読んで私はある恐るべき事実に気が付いて愕然とする
これらに出て来るのは美しい少女ばかりではない、話の中心を担う少年キャラ即ち『主人公』が存在する、彼らは話を導き、あるいは導かれ、その過程でたくさんのトーサカ・アサギ絵の少女達に出会い、囲まれて行く
そしてはたと気が付く、あのマカーキ猿野郎のイポーシュカ、即ち鳴谷慧もまた、

いわゆる『ライトノベルの主人公』属性の持ち主だと言う事に

殺そう、やはり生かしておく訳には行かない、
次の日の夜、私は内ポケットに愛用のナイフ銃各種毒物果ては万が一の自爆用のグレネードさえ持ち込み悲痛な決意と共に再び食堂に歩みを運んでいた
不思議な事に私の中にはもはやイポーシュカへの怒りや殺意よりもある種の責任感、使命感のような物が生まれつつあった
何故ならこのままだとジュラは疎かこの私でさえイポーシュカにフラグとやらを立てられて『撃墜』されかねない、そんな気持ちすらあったからだ
ああ我が愛しきジュラ、私は一足先にアンフィジカルレイヤーの海に還る、
イポーシュカを殺して私も死のう、願わくば当分私の元へは来ないでくれ

食堂に入るともうすっかりこの基地に馴染んだJAS-39がついに大皿10枚目を突破し周りのロシア兵達が歓声の声を上げていた
だからいい加減誰か止めろよもう
意を決し私は懐のナイフを握りしめ、イポーシュカの元へ歩もうとした
その時である、可愛い可愛い私のジュラが何やらはにかみながらイポーシュカの所にやって来たのだまさか、
「ななあ、ナルタニお兄さん、その、なんだ小腹が空いたからピロシキ作ってみたんだけどついつい作り過ぎて余っちまって、よ、良かったら、食べて見てくんないかな、あ、あくまで作り過ぎただけだかんな!か、勘違いすんなよな!」
その時の私が悪天候の中でザイとの戦闘中、誤って雷雲の中に突っ込んでしまった時以上の衝撃を受けた事はわざわざ言うまでもない、ジュラの手作りのピロシキだとう!私ですら食べた事が無いのにい!おまけにそれまでシラタキシバカリ呼びで名前を覚えられないジュラだったのにナルタニと正確にイポーシュカの名前を読んでいるう!
「ああ何か悪いな、実はここに来てからメインディッシュのほとんどをグリペンに食べられちまってたんだよな、有り難く貰うよジュラ、ありがとうな」
「あ、うん、良かったら後で味の感想聞かせてくれよな
やめろおお爽やかな笑顔で言うなあ!ジュラも頬を赤らめるなあ!
今まさに二人が正面から見つめ合ってランデブーしようとする、私はそれを必死に食い止めようと何とか割って入ろうした
しかしその時だった、真横から全く別の真紅の闖入者、即ちJAS-39が、まるでHIMATモードのリヒート全開のような速度で奇襲をかけて来たのだ
それは見事な動きだった、最速にして最小最短、空戦の教本に残りそうな戦闘旋回機動だった
そしてターゲットを正確にロックオンし、叱る後に迅速に口の中へと殲滅したのである
「モグモグ、味は意外とまあまあ、しかし決定的に量が物足りない、サイズをこの倍にするべき、至急改善とお代わりを要求する」
「あ、ああ、ああ!てんめこの何してくれてんだゴラァッ!ひ、人がせっかく夜中こっそりパクファのエプロンドレスを着てお兄さんの事を思いレシピサイトを一生懸命見ながら一晩かけて作ったピロシキを!!」
ジュラよシチュにも拘ったのか
「そ、そうだぞグリペン、せっかくジュラが俺の為に作ってくれたのに」
慧もジュラーヴリクも忘れている、慧と私は一心同体にして運命を共にする共同体、共に分かち難い関係、故に!慧の美味しい物は私の物、私の美味しい物は私の物!だからこのピロシキは当然私に食する権利があると思うべき!」
「いや待てグリペンさすがにそれはちょっと」
「上等だ!やってやんよこのクソピンク!今すぐ表に出て空に上がれ!こないだのリベンジも含めてボコボコにしてやらあ!いやもう面倒くせえ!今すぐ構えろや!アニマの姿のままでやってやらあ!!」
こちらこそ上等、ブラジルでぱわーあっぷした私の、最新世代の恐ろしさをその身で味わうべき!見よ私のグリペンミーティアぱんちを!」
そう言いながらJAS-39は何かのマンガかアニメで影響されたであろうおそらく当の本人にとってはカッコいいつもりの何やら怪しいポーズを取り始めた
そしてかく言う私は、目の前で立て続けに起きた出来事に、とうとうブチ切れて頭が真っ白になって叫んでいた
「貴様らああ!よくも、よくもジュラの手作りピロシキをを!私が一番にしゃぶり尽くしたかったのにいい!もういい殺してやるう!イポーシュカもJAS-39もそしてジュラも道連れにして私も死ぬう!死んでやるうう!!」
『あー皆さん何か楽しそうな事をやってますねー、ずるいですー、私も参加させて下さいー!』
「やめろ!やめてくれお前ら!グリペンもパクファも!周りのロシア兵さん達も腹抱えて爆笑してないで誰か止めて下さい!!

以上を持ちまして今回の一件をこの私SU-47-ANMベルクトが報告致します、なお今回の件に於きまして私は巻き込まれると何かとことん面倒くさそうと思いましたので、今回は経過の観察と報告に徹しさせて貰いました、予めご了承下さい、
え?私はイポーシュカ鳴谷さんをどう思っているかって?
それはまあ確かに鳴谷さんは格好いいし優しいしちゃんと頼りになる方ですけど
ごめんなさい、やっぱり私、ヤリック最高

後書き
自分ロシア語なんて無理なので、パクファの口調は一応本編読み返してから独自アレンジで書かせて貰いました
なお今回は自分裏設定でもし最終巻が全員無事でライノも奇跡で復活した世界だったらのつもりで書いたのでグリペンはD型なのかF型なのか敢えてぼかしています
ちなみに極東スウェーデン人の造語は相互フォロワーさんの腹痛戦隊猫背マンさんから