前書き このSSを書くに至ってざっとロシア軍と農家を調べたらイメージと違いロシア農業は意外と堅実で逆にロシア軍は規律が乱れて予算が不足気味な上に歩哨や偵察ってベテラン兵がやるので前提が成り立たないしけどカデクル氏の執念に充てられてSSネタにしたい欲が止まらないしという言い訳、ぶっちゃけシチュ最優先、テーマはツンデレ
冬は嫌いだ、そして白という色も
俺の名はカデルスク愛称カデルク、しがないロシア軍一兵卒である
今日も吹雪の中、基地から少し離れた森林地帯で定時の哨戒の任務に着いていた
いつもチームを組まされている相方はこの寒さの中、顔色がいつになく悪く、早めに切り上げさせた
交代要員が来るまで珍しく一人でいるなか、ボンヤリと年明けにまもなくザイとの一大決戦が始まる、だからこんな今更攻めてくる相手もいない辺境に生真面目に見張りの任務なんてやらなくても良いのにと我ながら不良な物思いに耽っていた
そんな時、軍用端末に無線が入る
「カデルスクであります、…まだ定時連絡の時間ではありませんが」
『緊急事態だ、カデルスク、我が軍で極秘に開発され試験運用されていた新型機がエンジントラブルで不時着した、今すぐ指定されたポイントに向かい救助活動を行ってくれ』
『私一人で今すぐでありますか?』
こんな悪天候にわざわざ新型機の試験飛行?
いくらザイ相手に敗退続きとはいえ我がロシア、引いては人類もいよいよ進退極まったか
『…まだ交代の者が戻って来ていません、私一人ではやれる事が限られます、せめて数十分の猶予を』
『事態が事態だ、時間がなく一刻の猶予を争う、最悪…中の『パイロット』の確保と救助だけでいい、そこから十数分程の距離に廃棄された民間の飛行場がある、そこに緊急着陸をしている筈だ、こういう時に限って人員が出払っている上にそこからの位置ではお前が一番近いんだ、頼む、カデルスク』
『…了解しました』
『カデルスク、誇り高きロシア兵ならそんな不安そうな声を出すんじゃない、そうだ、戦意高揚の為に一つ歌を歌ってやろう、…おお…我が故郷よ…』
苦笑して無線を切る、いい上官殿なのだがたまに下手くそな歌を歌う癖だけはついていけない
気を取り直して指定のポイントの方向を見つめる
眼下に広がる吹雪と黄昏れ始めた空を目の前にして、自然とため息が出た
迫る来る吹雪に体力と熱を奪われながら必死にGPSをチェックし、目的地へと歩み続ける、
見えた、確かに無人の飛行場らしき物がある、穴の空いたフェンスから入り手入れもされていないもはやひびだらけの滑走路を凝視する
畜生、真っ白だ、何も見えない、ただ滑走路の中央に積み上げられた雪の山があるだけだ
…雪の山?もう掻く人間などいないのに、そう思った時「それ」は純白の迷彩に彩られた戦闘機だと言う事に気が付いた
双発の前進翼機、確か機体番号SU-47、ただ試験のみに終わって今ではネットやたまのエアショーでしか見られないシロモノの筈だ
実験機まで駆り出さないといけない状況とはもはや我がロシア、否人間はそこまでザイに追い詰められていると言うのか、思わず皮肉気な苦笑が漏れる
しかし笑っている時ではない、とりあえずパイロットを助け出さなければ、機体に駆け寄る
近づけばつくづく奇妙な機体だった、ただでさえ珍しい前進翼だと言うのにあちこちが異様とも言うべき細部の形状が変更され、機体表面にうっすらと六角形のハニカムパターン、一体どんな迷彩効果があるのか解らない全身純白のカラー、止めにまるで人間を拒否してザイと同じ無人機とでも言いたいような装甲に覆われたキャノピー、本当に人間が乗っているのか?
「おい!パイロット生きてるか!?無事かどうか返事をしろ!!」必死にキャノピーを叩くが反応が無い、畜生このままでは、焦りを感じたその時まるでこちらの心に応えるように静かに蒸気と共にキャノピーが開いた
…一瞬言葉を失う、透き通るような白い長髪と肌、パイロットに必要な筋肉など欠片も無いような細く華奢な肢体、マスクやヘルメットも付けていないその姿はまるで戦場に相応しくない人形のような少女だった
あまりの非現実的な光景にまるで時間が止まったように身体が動かない、途端にまるで呼応したかのようにさらに風が吹雪く、さながら雪の妖精だ
ー雪が強い夜は、山から女の姿をした雪の化身が村へ降りてくる、そして気に入った若い男を魂ごと山に連れていってしまうー
幼い頃祖母から散々聞かされたおとぎ話がふと頭をよぎる
…とにかくいつまでもこうしてはいられない
彼女を助けて基地へ帰還しなければ、眼前の光景はますます夜の闇が濃くなり吹雪は強くなる一方だった
…やっぱり、俺は冬が嫌いだ
とりあえず気絶して眠っている彼女をコックピットから引きずり出して背中に背負う、息遣いと背中越しに伝わって来る体温でようやく彼女が生きた人間だと実感する
軽い、体重というのをまるで感じさせない、本当に綿雪で出来ているのかと思うぐらいに、だが質量が無い訳ではない
荒れ狂う夜の猛吹雪の中人一人を抱えてそれなりの時間と距離を基地まで歩くのはいくらなんでも自殺行為だった
とりあえず飛行場施設内に入る、外よりかは遥かにマシだろう、ロビーのソファの上にそっと下ろす、こうして改めて見るとつくづく作り物めいた顔だ
気を取り直して携帯端末でホームの基地と連絡を試みる、
…駄目だ、悪天候過ぎるのか、端末のバッテリー切れが近付いているせいか上手く繋がらない、位置は解っているのだから救援には向かっているとは思うが、この深夜の悪天候だと向こうも苦労してるだろう、かと言ってこのまま待ってるだけではどうにもならない、ため息をついて震える身体をさすりながら、仕方なく少女をソファに寝かせたまま施設の探索を始める、もう少し辛抱してくれよお姫様
幸いにして放棄されてまだ間もなかったのか、建物内は思ったより荒れてはいなかった
当たりを付けて電源室へ向かう、駄目元で予備電源を起動したら動いた、少し安堵する
宿舎の一室に少女を運び辺りから毛布を片っ端から集めてさらにニクロム線の切れかかった古い電気ストーブを見つけた
これなら今夜ぐらいはどうにか持ちそうだ
明かりと暖房が付いた部屋の温度が上がって行く
「う…」その時だ、暖気に当てられたのか少女が目を覚まし始めた
「…ここは?…まさか?ヤリック?」
「気が付いたかお嬢様」
アルビノかよ、それに鈴の音のようなか細い声、ますます人間離れした美しさだった
知っているアイドルでもここまでは見た事がない
「ヤリック…?いえ、違いますね、彼がここにいる訳がありません、あなたは…?」
「俺の名前はカデルスク、カデルクで良いぜ、命令で君を助けに来た、君の名前は?」
少し逡巡した後、彼女はゆっくりと名を告げる
「…ベルクト」
「ベルクト?それは機体の名前だろう、コードネームか何かなのか?」
「…すみません、ベルクト、としか言えないんです」
いやそんなバカな、例え機密だとしても、そんな時ふと思い出した
いつかノヴォロシスクで大規模な戦意高揚を兼ねた最新技術発表の時の式典に呼ばれた事を
壇上の上には何故か本来この場に不釣り合いなクロームオレンジとアクアマリン色の髪をした少女二人が仏頂面で立っていてその隣で軍のお偉方が演説していた
『…ついにザイに対する反撃が…今までにない画期的な技術…この二人は尖兵をになう勝利の天使…』
何やら耳慣れない専門的な用語がたくさん出てきて一介の新兵の俺には理解しきれなかったが
「解った…君の言う事を信じるよ」
「本当ですか?ありがとうございます、…これ以上は機密になって詳しく言えないのですが」
俺も兵士の端くれだ、軍が何かザイに対抗する新兵器開発に成功してその成果が壇上の二人とおそらく同類なのであろう目の前の少女なのは何となく理解した
そして、それが人道だの倫理だのをかなぐり捨てた結果だと言う事も
とにかく毛布を彼女と自分両方しっかり着込ませて残っていた携帯食料を分け合いじっとストーブを見つめる
今夜は長期戦だ
「あの」「ところであんた」
沈黙が辺りを覆う、少し空気に耐えかねてお互いに口を開き始めた
「まあとりあえず無事で良かったよ、ところでヤリックで誰だい?恋人かな?」
空気を軽くする為に少しふざけた感じ言う
「…恋人、そう、恋人でしたね」
「しばらく合う事は出来ませんが」
彼女の表情が重くなる、…地雷ふんじまったか、目を逸らしながら慌てて話題を変える
「そういやあんたの機体野ざらしのままで良いのかい、せめて屋根付きのハンガーに」
「仕方ありません、こんな状況で今から外へ出て野外作業はとても無理です、大丈夫です、私とあれはもっと『無茶』してきましたから」
気丈に笑う
「整備の連中が泣くぜ」
こちらも笑い返す
「いっそ解体して再設計するのもいいかも知れませんね、そうだ、レーザーCIWSなんてのを付けるのも良いかも」
愛らしい姿からは想像つかない台詞が出る、やっぱり普通の少女ではないのか
気が緩んだのか今度はベルクトの方から人懐こそうに尋ねてくる「そういえばカデルクさんの故郷は?恋人とかいるんですか?」
故郷、心臓がズキリと早鐘を撃つ、今度は彼女の方がこっちの地雷を踏んで来た
「…すまない、故郷にはあんまり良い思い出が無いんだ、そしてあんたには悪いが、」
ちらりと彼女の雪のような髪と肌を見る
「…雪と白という色にも、」
「そ、そうでしたか…すみません」彼女がしまったという表情を浮かべて押黙る
俺は何をしているんだろうか、彼女に感情をぶつけてもどうにもならないのに
「とにかく体力を温存しろよ、命令だ、あんたの命は何が何でも守ってやるよ」
「…わかりました」
気まずい沈黙が辺りを覆う、それなりに防音対策をしているだろうにそれでも雪と風の唸り声が聞こえてくる、まるで悲鳴だ
貧しい農家に産まれた俺は幼い頃から家を手伝い一日中働き通しだった
ロシアの冬は厳しい、ある厳しい寒さの年、過労で父が逝き、次の冬は祖母が、その次の冬は兄が逝った、冬と雪は俺から大切な物を何もかも奪っていった
立て続けに起きた不幸に母はすっかりやつれそして心労で倒れてしまった
このまま農家を続けても先行きは見えなかった
いたたまれず半ばヤケのように俺は首都へ飛び出しあてもつてもないままその日暮らしの肉体労働で過ごしていた
そんな時だった、軍が街で志願兵を募集していたのは
何でもザイとの戦争で深刻な人手不足だったらしい…
駄目元で応募したらあっさり通ってしまった
軍隊生活は想像よりも厳しくて想像よりも給料が安かったがそれでも今までに比べたら少しはマシだった
おかげで少ないながらも母に仕送り出来るぐらいにはなった
だがそれでも、心の何処かに空いた穴は塞がらないままだった
そして冬と雪が来るたびに過去が蘇って心がうずくのは今だに変わらない
空気が淀んでお互い無言になる、少し後悔の念がよぎる、ただただ目の前のストーブを見つめるだけになる
バチン、不意に異音と共に部屋の明かりも電気ストーブも一斉に落ちる、畜生やっぱり駄目だったか
辺りが漆黒に閉ざされ室温が急激におちていく
何も見えない、あまりの寒さに手足が痺れて行き頭がパニックに陥って行く
こんな所で死ぬ、そんな言葉が脳裏を過ぎる、イヤだイヤだ、俺までも「連れて行かれる」と言うのか、忌まわしい冬に、
「カデルクさん、…カデルクさん!」
そんな時だった…、不意に目の前に「明かり」が見えたのは
ベルクトの髪とアルビノの瞳が朧げに輝いて辺りを照らしていた、まるで夜道を導く月明りのように
「あんた…」
「すみません、本当はもっと輝けるのですが、やはりダイレクトリンクを通さずに発光するのはこれが限界のようです」
「い…いや十分だ」
彼女は普通の人間じゃない、それを嫌というほど思い知らされる
そしてさらにあろう事か彼女は強引に俺の毛布の中に入って来たのである
「…あ、あんた何を、」
「人肌を寄せ合った方がより温まります、今の発光状態なら私の体温はさらに上がっていますし」
そうして彼女は無防備に密着してくる
俺も若い男だ、こんな事をされて動揺しない訳がない、心臓の鼓動が早くなる
…しかし改めて見るとなんと天使のような横顔だろう
見ず知らずの、嫌味さえ飛ばした俺を完全に信用しきっている顔だった、嫌でも毒気が抜けていく
相変わらず俺は冬が嫌いだ、でもほんの少し、好きになれるかも知れない
一体どれくらいの時間が立ったのだろう、救援が来る気配は一向に感じられなかった
そして一生懸命彼女が温めていてくれるにも拘らず手足の感覚は無くなっていき呼吸は荒くなり意識が遠のいていく
「カデルクさん、カデルクさん…しっかりして下さい!」
お笑い草だ…彼女を護ると命令されたのにいつの間にか彼女に護られている、そしてそれも限界が近そうだった
「なあ…あんた…いざとなったら俺の毛布を着込め…なんなら服も剥ぎ取っていい…」
「カデルクさん?、いきなり何を…何を言っているんですか…」
彼女に動揺が走る、…だが時間が無い
「良いんだ…どうせ俺は下っ端の兵士…死ぬのも任務の内…それに比べてあんたは国家…いや人類の存亡が掛かっている存在なんだろ…?
だったら生き残るべきはあんたであって俺じゃ、ない…」
彼女は絶句する、構わず続ける
「ただ一つだけ思い残しがある…故郷に残したお袋だ…なあ頼む…あんた…もし生き残れたら俺の上官に取り次いで俺の全財産をお袋に届けるように言ってくれ…はは、大した額じゃないからあんたきっと笑って…」
「何バカな事を言っているんですか!!」
いきなり彼女が怒気を膨らませて怒鳴りつけた
思わず今度はこっちが押し黙ってしまう
「いつもいつも…あなた達人間は勝手な事ばかり!あなたも!ヤリックも!知り合いのとあるイポーシュカも!」
彼女が上気した顔でまくし立てる、止まらない
「私はあなた達人間が羨ましい!私は、自分の生き死にを自由に決める権利すらなかった!!」
驚いた…氷のような表情の何処にこんな熱を秘めていたと言うのか
もはや儚い雪の妖精などではなく反射光すら見える苛烈な結晶、そしてまるで夜空に浮かぶ激しいオーロラのようだった
室温が上がった気すらした、自然と汗が滲み出る
「私を見て下さい、前を向きなさい、『イワン』のカデルスク!!」
そしてこちらの顔を両手でつかんで覗き込む、その真紅のアルビノは炎すら燃え盛っているようだった
しばし見つめ合う、そして…
「あ…」
いきなり唇に甘く、柔らかく、冷たく、そして熱い感覚が重なってくる、
氷を強く握れば火傷のような熱い感覚に襲われる、まるで口の中に雪を含んだような…、
俺は冬が…、
思わず目を閉じる、短いような長いような時間が過ぎて
「これは生命を賭けて私を救ってくれたお礼…、一回限りの大サービスです、本当はこんな真似、ヤリック以外にしません、知り合いのイポーシュカ相手にも、ふふ、彼に怒られてしまいますね…」
あまりの事態に頭が働かない、そして構わず彼女は胸元からロケットを出し俺に見せる、
そこには研究者とおぼしき痩せぎすの若い男の写真があった
「あなたはヤリックに似ています、容姿ではなく、魂の『本質』が」
現実は非情で、さっきまでの熱はとうに冷め、氷点下の中また意識が遠くなって行く…
「安心して下さい、あなたは『連れて行かれる』事はなさそうです、ふふ、あなたはせいぜい長生きして悩めば良いんです、ヤリックの代わりに…」
悪戯っぽく彼女が微笑む、何処からか機械の駆動音と、大勢の男達の叫び声と、複数の足音が聞こえてくる…
「ありがとうございました、カデルクさん、おそらくもう二度と…」
…意識を失う寸前、そのヤリックとやらの目の前で、彼女を強引に奪ったら、さぞかし痛快で、そして後悔するんだろうなと、我ながら変な思いが過ぎった
目が覚めて次に見た「白」は、病室の天井だった
「おお目が覚めたかカデルスク、まあご苦労だったな」
隣に上官がいてこちらを覗き込んでいた
「上官、俺は…」
体を動かそうとしたが鈍い痛みが走る
「寝ておけ病人め、無理をするな」
言われておとなしく黙り込む
「処置は適切だった、危ない所だったんだぞ
低体温症と凍傷一歩手前だったんだ、幸運な奴め、危うく手足の一本も切り取られる所だったんだ、良かったな」
慌てて意識を集中する、…良かった、手足に感覚がある
「上は今回のお前の働きを大変評価している、無論俺もだ、特別な賞与が出る、さらには昇級の話も出ている、当然俺からも推薦しておいた、良かったな、給料が上がるぞ」
「…そうですか」
実感は湧かなかった、ただ母への仕送りが増える、それしか思わなかった
「上官、彼女は、ベルクトはどうなったんです…」
上官は大柄な身体をゆっくり揺すらせながら言う
「彼女の事は心配しなくて良い、『あれ』はお前が思っているより遥かに頑丈だ、少し調整してもう作戦に復帰した、今頃現地入りしている事だろう」
「…振られたか、」
「ん?何の話だ?」
「いえ…『連れて行かれ』なかったな…って」
結局彼女が選んだのはあくまでヤリックであって俺ではなかったのだろう、それが少し寂しく、悔しかった
「そういや上官、ベルクトが現地入りって…、作戦の実行日までまだあるのでは」
上官は急に渋い表情をする
「実はここの所のザイの侵攻ペースが上がっていてな、前線がいくつか落とされ何より重要拠点である極東が爆撃を喰らった、どうやら重要な施設がやられたらしい、もはや悠長にかまえている余裕はないと言う事になって作戦が前倒しだ、俺もこの後すぐまずはベラヤに行かねばならん」
良く良く見ると上官の格好は重々しい旅装だった
「…!上官、だったら俺も…っ」
動こうとしたら体中に痛みが走る
上官はそんな俺を見て笑って制した
「怪我人を前線に連れていけるか!、ただ足を引っ張るだけだ、いいからお前はここで療養に徹してその後はこの基地とロシア本国を守れ、本土防衛は重要な役目だろう」
「…了解しました」
何となく悔し涙が滲み出る
「そんな顔をするな、そうだお前に一つ追加の任務をやろう、料理班と連携して俺の勝利の凱旋の為に肉と酒をたっぷり用意しておけ、少しでも足りなかったら貴様は銃殺だ」
冗談めかして笑顔で言う
「それは真に重大な任務、生命をかけなきゃいけませんね」
「そうだろうそうだろう、…うん今日は気分が良い…おお…必ず帰ってくるぞ女達よ…」
また下手くそな歌を歌いだす、だが何故だろう、いつもはダサくて苦痛な歌が始めて心地よいと感じていた
「毎回思っていたんですがそれなんて歌です、流行りの歌は当然、古い名曲でもありませんね」
「俺の故郷の村にだけ伝わっている歌でな、なんでも戦の前にこの歌を歌った男は必ず勝って帰ってくるんだそうだ、そのおかげか俺はこうして今まで生きて帰って出世してる、どうだ羨ましいだろう」
いつもだったら聞き流してる冗談だが、今回はあやかりたかった
「…健闘を」
上官は微笑みながら片手を上げてそのまま振り替えらずに病室を後にしていった
そしてこの後、ベルクトと上官、この二人に二度と合う事はなかった
上官の乗っていたAWACSは護衛機を全て叩き落とされてザイのミサイルを四方八方から食らってしまった、欠片も残らなかったらしい
着弾の寸前、最後に無線から聞こえて来たのは『前進せよ!!』の雄叫びとほんの一瞬あの下手な歌が聞こえて来たそうだ
あの人らしいと思った
ベルクトは球殻が消えてドーターがホームベースに帰投しキャノピーを開けた時、そこにはパイロットスーツだけが残り肉体は文字通りまるで春の淡雪のように消えていたらしい
きっとヤリックに会いに行ったのだろう
間もなくロシアに遅い春がやって来る、雪が溶けて景色に色がつき大地は一斉に芽吹く
それでも今の俺は冬が名残惜しく思う
後書き
いつも世話になっているカデクルさんに、とはいえベルクトへの愛を見せられる度に気が付いたら勝手に筆が運んであくまで自分が書きたくて書いたSSです
可能な限り原作によせましたがやっぱりガバい所があるのそこはお許しを()
ベルクト飛行記念日に間に合ったのは割と奇跡でした
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